クリスマス3
結局、そのままファミレスを出て、電車を乗り継いで、あたし達は家の近所まで戻ってきた。
気まずい沈黙が続いていた。
だって、そんな風に、考えたことなんて無かったから……。
「朔美、コレ」
「え」
コウちゃんはそういって、かばんからリボンのついた包みを取り出した。
「プレゼント。受け取ってよ。捨てるのも勿体無いし……。本当はさ、さっき渡したかったんだけどな。……嫌なら、いいんだ」
あたしは、差し出されたプレゼントを受け取った。
「あ、りがと……」
「うん」
「……」
「……」
また、沈黙。
家はもうすぐそこなのに、だけどふたりとも動けなくって、あたし達は立ち尽くした。
「オレさ」
コウちゃんが沈黙を破る。
「もう、近所じゃなくなるんだ」
「え?」
「引っ越すんだよ。まぁ、高校は変わらないし、そんなに遠くへ行くワケじゃないんだけど……朔美は学校違うし、今までみたいには、会えなく、なる……かな」
あたしたちが会うのは、いつも、偶然だ。
帰り道、とか。
近くのコンビニ、とか。
朝、学校行くとき、とか。
偶然。
偶然……?
「ほんとに?」
「うん」
アレは、偶然だったのかな。
おはよう、とか、お帰り、とか。
ほとんど毎日みたいに。学校も違うのに。
偶然だったのかな。
……なくなっちゃうのかな。そういうの。
「ほんとに?」
なんでだろう。木枯らしが吹いたみたい。
物凄く、寂しくなった。
急に、すごく寂しくなった。
「朔美?」
寂しいよ。
そんなの。
「やだよ」
「朔美……」
「やだぁ……」
気づいたら、涙が出ていた。
こどもみたい。
子供みたいに、バカなワガママで、あたしは泣き出した。
コウちゃんは優しくあたしの頭を叩いた。
それから、ポンポンって、背中を撫でて。
「コウちゃん、あたし、会いたいよ」
「うん」
「毎日、会いたい。コウちゃんと」
「うん」
「……」
こういう気持ちって、こういうのって。
「朔美。もう一回言っていいかな」
「……?」
「オレと付き合って」
……。
…………。考えたことなんて無かったけど。
だけどあたしはどうやら。
好きみたいで。
この幼馴染の事。思ってたよりずっと、好きみたいで。
だから、うなずいた。
「……うん」
コウちゃんは嬉しそうにあたしを抱きしめた。
大きな身体はあったかくって、ドキドキした。
***
「ねぇ、これ、開けていい?」
「うん」
さっそく貰ったプレゼントを、あたしは開けた。
赤いマフラー。
「わぁ……」
首に巻いてた黒いマフラーを外して、あたしはそれを巻いてみた。
「似合うかな」
「似合うよ」
「へへ。……でも、あたし、何にも用意してないよ」
そう。だって、今年も、いつものクリスマスだと思ってたから。
コウちゃんはニッと笑って、あたしの手の黒いマフラーを奪った。
「じゃ、これ。頂戴?」
「えっ、ダメ!!」
慌ててあたしはマフラーを奪い返そうと掴んだ。
「なんでー、ケチ」
「だって、もう、古いもん、それ」
「良いよ」
「ダメ!!!」
「……ケチ」
つまらなそうに言って、コウちゃんは口を尖らせた。
「じゃ、じゃあ、また今度、改めて何か買ってくるから、ね」
コウちゃんはマフラーの端を掴んだまま、離さない。そのまま、ちら、とあたしをみた。
「しょーがねーなぁ…。じゃあ」
「えっ」
急にぐいっとマフラーを引っ張られた。
当然、掴んでたあたしはコウちゃんの方によろめく。
よろめいて、また、抱きしめられた。
こうちゃんの手が、あたしのあごに触れた。
そのままくい、と上向かせられて。
「コ、コウちゃん……っ!?」
コウちゃんの顔が、酷く近い位置にあった。
ばく、ばく、ばく。
心臓が物凄く騒いだ。
「えっ、ちょ……」
こ、ココロの準備が……っ
「……しっ」
目を細めて言われて、そのままあたしは硬直した。
唇が、重なった。
ほんの、一瞬だったけど。
冷たい空気の中で、そこだけ、とても、暖かかった。
唇が離れても、まだあたしはぼーっとしてた。
コウちゃんは赤い顔で、だけどイタズラっぽくニッと笑った。
「……いいもん、貰った。さんきゅーな」
「え、いいもんって、え……?」
「クリスマスプレゼント」
「え……」
キス……?
コウちゃんは嬉しそうに笑って、あたしの頭をぽんぽん、って叩いた。
「帰ろうぜ、冷えるから」
「う、うん」
今年のクリスマスは、いつもとちょっと、違ってた。
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