ドラクエ2 〜旅立ち〜


それは、ある晴れた日の昼下がり。
ローレシアの若き王子・カカオは、父王から銅の剣と50Gを渡され、突然城を放り出された。

なんだってこんなことになっちまったんだ…??

とりあえず、外へ出てみたものの、まだ何をどうして良いのか分からない。
カカオは確かに腕に覚えがあった。わずか16歳という年齢でありながら、ローレシアの近衛兵達の誰よりも剣術に長けていた。
が、まさかたった一人で城を放り出される事になるとは……。

◆◇◆◇◆

事の始まりは、はるか南西の国『ムーンブルク』からやって来たという傷ついた兵士の、不吉な報告だった。
ムーンブルク城が、大神官ハーゴン率いる魔物の軍団に攻め込まれ、陥落した、というのだ。
兵士は瀕死の身体をおしてローレシア王にその事を告げると、まもなく息を引き取った。

話を聞いた王は、すぐに王子のカカオを呼び出し、ハーゴンを倒せ、と命じた。

「行け、カカオよ!」
王は妙にノリノリで言った。しわだらけの顔に珍しく赤みがさしている。
「……い、行けって……??」
カカオは呆然としてつぶやいた。
「どうした?まさか、ロトの血を引くおまえが、おじけづいたとでも言うのか!?」
「あのな、親父! 敵は軍団なんだろ!? 俺1人で行ってどうすんだよ!? 殺す気か!?」
カカオは正直びびっていた。

「ロトの勇者はかつてたった一人で竜王を倒したという…」
王は芝居がかった遠い目をしてつぶやいた。
「……あのな。そりゃ、伝説だろ!?」
「いや、この伝説は本当じゃぞ!!」
ロトの血が騒いでいるらしい。王はどこまでもハイテンションだった。

「わしが、もう少し若けりゃ、一緒にいってやるんじゃがなぁ…」
王はそう言って、ひと振りの『銅の剣』を取り出した。
そしておもむろに「むんっ」と言って構えて見せる。…と同時にぐきりと嫌な音がした。
「や、止めとけよっ! 歳なんだからっ」
カカオが慌てて王の手から銅の剣を奪うと、王はヨロヨロと玉座に腰かけた。
ローレシア王はすでに60を超えようという年齢だった。
カカオは歳とってから産まれたたった一人の世継ぎで、今までさんざん可愛がられて育ったのだ。
その大事なカカオを、危険なハーゴン征伐の旅へ出そうというのだから、王にもそれなりの覚悟があるはずだった。

――しょうがねぇっ

カカオは覚悟を決めて叫んだ。
「……わかったよ! 行ってやるよ!」
「おお! そうか! 行ってくれるか! それでこそ我が息子じゃ!」
王は目を輝かせて、満足そうに笑った。

そんなわけでカカオは王子育ちにもかかわらず、たった一人で旅立つことになってしまった。

◆◇◆◇◆

そういや、親父のやつ、仲間を探せって言ってたな……。

サマルトリアの王子――同じロトの血筋の隣国の王子ということで、聞いたことはあるが、面識は無い。
ムーンブルクの王女――ムーンブルクは滅ぼされたらしい。生きているのかさえも分からない。が、王女はそれはそれは美しいという評判だった。

ムーンブルクの王女か…。たしか、プリンっていったっけ? 美しいってのは本当だろうな……?
……しょうがねぇ、とりあえず、行くか! ……まずはサマルトリアからだ!!



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