ドラクエ2 〜出会い1〜


「まだクッキー王子と会えぬのか?ここには戻っていないぞよ」

……あぁっ!?? 「ぞよ」じゃねーよっ、「ぞよ」じゃっっ! てめーの息子だろーがっ!! 出しやがれっ!!!

なんとものんびりとした口調のサマルトリア王の言葉に、カカオは危うく立ち上がって王を怒鳴りつけそうになった。それでも何とか飲み込んで、必死にひざまずいた姿勢を保つ。

カカオがローレシアを旅立ってから、すでに半月が過ぎようとしていた。
王子育ちのカカオだったが、やってみれば野宿も意外に平気なものだった。おそらく本人の資質によるものだろう。
モンスターも、この辺りはカカオの相手になるような手ごわい奴は居らず、旅は順調かと思われた。
……が。

クッキーのやろう……!!!

まだ見た事もない隣国の王子に対して、カカオは苛立ちを募らせていた。

◆◇◆◇◆

ローレシアを旅立ってから、カカオはまず最初にサマルトリア城へ向かった。
そこで、クッキー王子に出会う予定だった。……が、そこに王子の姿は無かった。

…しかたなく、
「わしの息子クッキー王子もすでに旅立ち、今頃は『勇者の泉』のはずじゃ」
と言う、サマルトリア王の言葉に従い、勇者の泉の湧く洞窟へと向かったのだった。

お互い、ヘンな血筋に生まれちまって大変だよなぁ……。

この時は、自分と同じ境遇のサマルトリアの王子に対して、同情すら覚えていた。
しかし。
勇者の泉へ着いてみると、そこにもクッキー王子の姿は無かった。
泉を守る老人が一人、カカオを出迎え、
「一足違いであった。クッキー王子は今頃ローレシアのお城に向かっているはず」
と言うのだ。洞窟では苦労して最奥へたどり着いただけに、かなりショックだった。

むこうも、俺を探してんのか……! ちっ!

カカオは大急ぎでローレシアに取って返した。
しかし。
「おおカカオ! さっきまでサマルトリアの王子が来ていたのじゃぞ! おまえを探して、サマルトリアへ戻ってしまったところじゃ! ささ、早く追いかけるのじゃ!」

んなにぃーーーっ!!

カカオはいいかげん腹が立ってきた。この時点で、ローレシアを旅立ってから既に10日が経過していた。

こんなことなら、最初っからローレシアで待ってりゃ良かったじゃねぇかっっ…!!

カカオは城の者への挨拶もろくにせず、再びサマルトリア城へと取って返したのだ。…そして冒頭へ戻る。

◆◇◆◇◆

――あーっ、ちくしょう!!

サマルトリア王の御前から下がると、カカオはぶらぶらと城内を散策しはじめた。
もう急ぐのがバカらしかった。

クッキーも、ここへ戻って来るかもしれねぇしな。

ブツクサ言いながら歩いていると、後ろ方向、回廊の柱の陰に、人の気配を感じた。
カカオが歩くと、その気配は次の柱、また次の柱へと、隠れながらついてくる。こちらの様子を覗っているようだ。
カカオは曲がり角へさしかかると、曲がりきったところで立ち止まり、その気配を待ち伏せた。

――どすんっ!!
待ち伏せられていることに全く気づかなかったその人物は、真正面からカカオにぶつかり、尻餅をついた。
「いったぁ〜い!!」
白いドレスに身を包み、サラサラの茶色の髪を腰までのばした、愛らしい少女が痛そうにお尻をさすっていた。歳は12、3というところか。

「もぉ〜う!急に止まらないでよっ!」
少女は大きな瞳を吊り上げて、可愛いらしい声で抗議した。

カカオは一瞬、少女に見とれてしまった。
「あのな。お、おまえがついて来るからだろ? ……なんの用だよ」
少女は自分の尾行がバレバレだった事を知ると、むぅっと口をとがらせて立ちあがった。
「あなた、ローレシアのカカオ王子なんでしょ?」
「……良く、分かったな」
半月も旅して、カカオの格好は既にボロボロだった。もともと旅装束だったとはいえ、とても王子には見えないだろう。

そこへ、回廊をバタバタと走る足音がして、兵士らしい男がやって来た。
「ココア姫! こんなところで、なにをなさっておいでです! ……そんな得体の知れない男と口をきいて!!」
男は少女とカカオの間に割って入り、カカオをにらみつけた。
「……あ!?」
カカオはそんな無礼な口をきかれたのは初めての経験で、一瞬言葉を返すのが遅れてしまった。慌てて先に、ココア姫が口を挟んだ。
「ちょっと! この人、ローレシアの王子なのよ! だめよ! そんなこと言っちゃ」

「え!? 王子…!?」
兵士はじろじろと上から下までカカオを見た。すると、急に慌てた様子になって、
「これは、失礼いたしました…!」
と頭を下げた。
(……俺のどこかに、王子らしい所、残ってたか?)
ココアは満足げな顔でうなずいて、兵士を下がらせた。そして、カカオの考えを見透かしたかのように、
「やっぱり、顔じゃないかしら」
と言って、いたずらっぽく笑った。

◆◇◆◇◆

「あのね、あたしも連れて行って欲しいの」
ココア姫は真剣な面持ちでカカオに言った。
「…はぁ?」
「だって、お兄ちゃん、心配なんだもの…」
ココア姫はカカオの手を取らんばかりだ。
「…ダメだ」
「えぇ〜! どうしてよっ。あたしだって、ロトの血を引いてるのよっ。お兄ちゃんより役に立つんだから!」
「…って言ったって、おまえ、いくつなんだよ…?」
言いながら、妹にここまで言われるクッキー王子に、カカオは不安を覚え始めた。
「…11」
がくり。カカオは思わず肩を落とした。
「ダメだ、ダメだ!」
「なぁ〜んでよぉぅ!!」
「だっからよぉ〜」
…………。

一時間後。一歩も引かないココア姫の説得に失敗したカカオは、クッキー王子の許しが出れば連れて行く、と約束させられてしまった。

◆◇◆◇◆

「お兄ちゃんね、割とのんきものなの。どこかで寄り道してるんじゃないかなぁ〜」
サマルトリア城を後にしたカカオは、ココア姫のこのセリフに、ひとつ心当たりがある事を思い出し、『リリザの街』を目指した。
せっかちなカカオは、ローレシアとサマルトリアの中間にあるこの街の存在に気づきながら、一歩も足を踏み入れず通り過ぎていたのだ。
寄り道スポットとしては、ここしか無いだろう。

リリザの街へ着くと、最初に入った宿屋でいきなりサマルトリアの王子を見つけた。
クッキー王子は、妹と同じサラサラの茶髪で、可愛らしいという表現がぴったりの風貌だった。
「ぼくは、サマルトリアのクッキー王子です。もしやキミはローレシアのカカオ王子ではっ!? いやーさがしましたよ〜」
なんとも、のんびり〜とした口調と笑顔でクッキー王子は言った。
……が、そののんびりした口調がせっかちなカカオのカンに触った。
「てんめぇ〜!! さんっざん探させやがって!!!」
カカオはクッキーの首を締めそうな勢いで怒鳴った。
「え? そう〜? ぼくも、結構さがしたんだよ〜、ま、会えたんだし、いいじゃない。これから、よろしく〜」
クッキーは満面の笑みを浮かべた。
カカオは、その笑顔を見て。本当に、その細い首を締めた。

「な、な、なんだよぉ〜、仲良く行こうよ〜!!!」

こうして無事、サマルトリアのクッキー王子が仲間に加わった。



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