クリスマス1



「あちち」

たった今コンビニで買った肉まんにかぶりつきながら、家までの道のりを小走りで行く。

昨日、マフラー出しておいて良かったなぁ。

冷たい木枯らしが吹き抜けて、ほどけかかったマフラーを首に巻きなおす。

角を一つ曲がったところで、正面から歩いてくる人影が、呆れたように笑った。



「お帰り〜。ま〜た、肉まんくってる」



大きな、お世話。

幼馴染のコウちゃんは、笑いながら近づいて、あたしの肉まんを奪った。

「いただきっ」

と言って、パクリ。



「ああっ!! ちょっとぉっ!! でっかい口で食べないでよっ」

「悪いなぁ、でかい口で」

コウちゃんは口もデカイが目もデカイ。ついでに背も、足も、馬鹿デカイ。バレー部員。

デカイごつい手を私の頭にのっけて、ぽんぽんと叩いた。

「返すよ、ほら」

もごもごしながらそう言って肉まんをよこした。



「なぁ、これから帰んの?」

「そうだけど」

「部活?」

「うん」

来週は演奏会があるから、今週はずっと遅かったんだ、ウチの吹奏楽部。

「もうお腹ぺこぺこだよ。早く帰ってごはん食べたい」

「ぷっ、今肉まんくってるじゃんか」

「うるさいなぁ、それはそれ、これはこれ!」

言いながら、あたしは冷めかかってる肉まんをまた一口、ぱくり。

部活帰りの肉まんは、あたしの冬の定番なんだ。



「色気ねぇなぁ〜」

「ほっとけっての。…じゃあね!」

行こうとする私の腕が、がしってつかまれた。

「? 何?」

「知ってた? 今日ってクリスマスイブなんだぜ」

「……知ってるよ」

嫌でも知ってるよ、そんなの。

意識しなくたって、今もそこの家の庭はキレイな電飾が一ヶ月も前からキラキラしてて。

駅の方へいけば、必ず流れてる、耳にタコなジングルベル。

全然全く、なーんの関係も無いけどね、あたしには。家でケーキくらいはでるかも知れないけど。。



「なぁ、出かけない?」

「は?」

「たまには、いいだろ」

「……は? どこへ? カドヤ?」

カドヤっていうのは小さい頃よく行った、近所の駄菓子屋。

あたしとコウちゃんが出かける、といえばそこだった。

……随分昔の話だけど。

今は一緒に出かけるって事が、まず無い。

コウちゃんはさも呆れたって顔でため息ついた。

「バカ、なにが悲しくってクリスマスにカドヤなんだよ」

バカ呼ばわりが悔しくて、あたしは口を尖らせる。

「だ、だーってさぁ」

「糖谷、行こうぜ」

「えぇ!?」

糖谷というのは、電車で4つ行ったとこにある、開けた街で、ビルやら何やらいっぱいある。

あそこの電飾は結構有名で、今日みたいな日に行こうものなら、恋人の群れが大量に発生して大迷惑な場所だ。

「やだよ、何が悲しくてクリスマスに恋人も居ない人間が糖谷なワケ!?」

「いいだろ、オレだって居ないんだから」

……。

そうか、一人で行ったら必要以上に寂しくなるけど、2人なら……。

「でも、やだ。だってウチの学校の連中とか、絶対居るもん。カップルとか。うちらもそうだと思われるよ!?」

「いいだろ、別に。俺ら学校違うし。なんだよ、オレとカップルと思われるのヤダ?」

「え……っ」

考えたことも無かった。

コウちゃんが、彼氏だったら?

あたしはマジマジとコウちゃんを見上げた。小学生の頃はずっとチビだったのに、中学に入って急にデッカくなって……ほんと、でっかいなぁ……。190cmはある。

顔は、うーん、そういう目で見たことって無かったけど、まぁまぁ、じゃないかな。

髪は柔らかそうでサラサラしてて、好きだ。……将来はヤバイかもしれないけど。



コウちゃんが急にかがんで、あたしと目線が合った。

「えっ!?」

びっくりして思わず声を上げる。

「嫌・な・の・か!?」

――どっきん。

いつもは見上げてばっかりの顔が、急に目の前に合って、マジマジ見られたら、急に心臓が飛び跳ねた。

「え、ううん。嫌じゃ、無い、けど……」

そしたら目の前の顔は満足そうに笑って、また高い位置に遠ざかった。

「よし、じゃあ家に電話しとけ。行くぞ」

そう言って、コウちゃんはもう歩き出している。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

あたしはすっかり冷めた肉まんを口にくわえて、慌ててかばんの中の携帯を探した。


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