麗しき公達の誘い 五.


 夕刻になり、様子を見に来てくれた由紀に、さっそく中将の事を尋ねた。

「左近の中将様は、右大臣様のご長男。殿上人の中でも特に今上の御覚えもめでたく、若い公達方の中では一番の出世頭ですわ。それにそれに、これまで独身を通しておいでの方ですのよっ」

 どうやら由紀のお勧めは、左近の中将、という事らしい。

「へぇ……。どっちにしろ、雲の上の人ねぇ……大臣家の長男なんて……」

 千夜子は呆然とした。そろいも揃って超一流貴族の貴公子。千夜子にとっては雲の上過ぎて、なかなか現実感が沸かないのだ。

「由紀殿! それは左近の中将殿のお申し出はありがたいものですわ。それでもやはり、ご身分の上では兵部卿の宮様のほうが格段に尊い御方。千夜子には、兵部卿の宮様と縁を結んでもらいます」

「まぁ! それは宜しくありませんわ! 兵部卿の宮様はそれは素敵ですけど……当然北の方様もいらっしゃいますし、他にもあちらこちらに愛人の方がいらっしゃるんですもの。左近の中将様であれば、もしかしたら姫様は、北の方にだっておなりになれるかも知れないんですのよっ」

「き、北の方……」

 母がごくりとつばを飲む。

「い、いいえ、それでもやはり、ご身分の重い方にお仕えするのが筋というもの……っ」

「そんな御方様! それでは姫様のお気持ちはっ」

「ちょちょ、ちょっと待って!!!」

 目の前で繰り広げられる二人の言い争いの渦中では、千夜子は頭も整理できない。

「あのね、私はどっちにしろ上手く行かないと思うのよ……。世界が違うって言うか……。やっぱり私には、あの受領あたりがお似合いなんじゃ……」

「何を馬鹿なことを!」
「それは愚かですわ!」

 ほぼ同時に叫ばれて、千夜子は絶句した。
 そこへ。

「おーい、おーい、お姫ぃさんや」

 例の受領がやって来る、まぬけな声が聞こえた……。


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