ドラクエ2 〜出会い2〜


人と人とが出会う街『ムーンペタ』。にぎやかな街の一角を、2人の旅の少年が足早に歩いていた。
少年の一人は背が高く、細身だが筋肉質で、いかにも戦士という風貌。もう一人は、茶髪のさらさらヘアが美しく、一見少女と見間違う、線の細い少年だ。
そして、2人を追いかけるように、一匹の子犬。

「くーん、くーん…」
「ちっ。まだついてくんのかよっ…!」
カカオは呆れ顔で振り返った。蹴り飛ばしそうな勢いである。
「ねぇ。やっぱり連れていってやろうよ〜」
クッキーはそう言って、カカオからかばうようにそっと子犬を抱きかかえた。
すると、子犬は嬉しそうにクッキーの鼻の頭を舐めた。
「うわ、やめろよぉ、…あははっ」
じゃれあう2人(?)を見て、カカオは露骨に嫌そうな顔をした。
「あのなぁ。ムリに決まってんだろ! 俺たちゃ、のんびり旅行に行く訳じゃないんだぜ!?」
言って、カカオは子犬の首根っこをつまみあげ、2人を引き離した。
「で、でもさ…!」
カカオはクッキーが何か言いかけるのを無視して、子犬を道に降ろし、クッキーの腕を引っ張って走り出した。
「わぁ、ちょっと、カカオ〜!」
クッキーは抵抗しようとしたが、カカオの怪力に適うハズも無く、結局諦めて一緒に走った。
子犬は必死について来ようとしていたが、2人の速さにはついて来れず、やがてその姿は見えなくなった。

2人は街の外へ出た。
「はぁっ、はぁっ…」
クッキーは息を整えながら、非難がましい目でカカオを見つめた。
「……可哀相だよ、あの子犬…」
カカオは涼しい顔をして、わざとらしく舌打ちした。
「しょーがねーだろ。犬なんか連れて、モンスターがうようよしてる、街の外、歩けるか? 散歩じゃねーんだぞっ!?」
「……でもさ」
クッキーはしょんぼりとしてうつむいた。
「とにかく! …行くぞ!!」
カカオはすたすたと歩き始めた。
クッキーは後ろ髪を引かれる思いでムーンペタを振り返ったが、しぶしぶカカオについて行った。

◆◇◆◇◆

ムーンペタの街を出てから1週間。
2人は再びムーンペタへと戻ってきた。

街を出てムーンブルク城へ向かった2人は、そこで王の霊に会い、王女が犬にされたこと、呪いを解くには『ラーの鏡』が必要なことを知った。
そして、ムーンブルクからはるか西の毒の沼地で『ラーの鏡』を手に入れ、あの子犬が王女であると、確信に近い予感を感じて、戻ってきたのだ。

◆◇◆◇◆

「くーん、くーん…」
街へ入ると、すぐに例の子犬が2人を見つけて、駆け寄ってきた。
「よぉっ」
カカオが子犬の前にしゃがみこむ。……と、子犬はそのままカカオにハイスピードで突進した。
――どすっ!!
カカオは見事にひっくり返った。
子犬はそのまま何事もなかったかのように走り抜け、クッキーに跳びついた。
「あははっ」
クッキーは子犬を抱きかかえ、ひっくり返ったカカオを指さして笑った。
「てっ、てっ、てっめ〜!!」
カカオは起きあがって子犬をにらみつけた。
「おまえの為にな、俺たちゃ、どんだけ苦労したと思ってんだ…!!」
「……」
子犬はつーんとすまして、知らん振りしている。
「おい、やっぱ、違うんじゃねぇのか?!」
「うーん、そんなことないと思うけど〜?」
クッキーは子犬を地面に降ろし、道具袋から、金色の淵の手鏡を取り出した。
「これで、呪いがとけるんだよね…」
「もし、こいつが、そーならな」
カカオは子犬に疑わしそうな視線を投げた。
「じゃ、いくよ…」
子犬はきょとんとしている。
クッキーは、ラーの鏡を差し出して、子犬の姿を鏡に映した。

その、瞬間…!!
子犬を中心に、辺りがぱぁっと白く光り、鏡がパァンッと派手な音を立てて砕け散った。
「わあぁっ」
クッキーは思わず鏡を取り落としそうになった。
あまりの眩しさにおもわず目を閉じる。
そして。
光がおさまると…。

そこには、目も眩むほどに美しい、一人の少女が呆然として座っていた。
華奢な身体。長いまつげに、大きな赤い瞳。
少女は、まじまじと自分の手を見つめ、そして背を覆う美しい桃色の髪に触れた。
「ああ、元の姿に戻れるなんて……。もう、ずっとあのままかと思ったわ…」
つぶやき、潤んだ瞳で2人を見上げる。
「ありがとう…。わたしは、ムーンブルク王の娘、プリン。わたしも、仲間にしてくれる…?」

クッキーは、しばし王女にみとれていたが、
「…うん。もちろんだよ。ね、カカオ」
と、すぐにいつもののんびり口調で、にこにこしながら言った。
「お、お、おう…」
カカオは、プリンの美しさに目を奪われ、硬直したまま答えた。
「ぼくは、サマルトリアのクッキー。こっちは、ローレシアのカカオだよ、よろしくね。」
「ええ、よろしく」
プリンは花がほころぶように笑った。

「…カカオ、何か、言ったら?」
「……」
カカオはまだ硬直している。
と、不意にプリンは立ちあがり、両手を伸ばしてカカオの手を取った。
「え、えっ…!?」
カカオは顔を真っ赤にして露骨に動揺した。
プリンはにっこりと花の微笑みを浮かべた。
「…この間は、手厚い扱いを、どうもありがとう」
微笑んだままそう言うと、ぎゅうぅ〜っっっと思いきりカカオの手を握り締めた。
「いぃってぇぇ〜〜!!」
カカオは思わず跳びあがって叫んだ。
そして、自分の身に起きた出来事が信じられないと言う様子で、まだ痛みの残る手と、美しい王女を見比べる。
「うふふふふっ」
プリンは満足そうに微笑み、クッキーにウィンクした。
「……」

――なんか…、仲間は揃ったのに、先が、思いやられるな〜。

クッキーはぼんやり思った。



<もどる|もくじ|すすむ>