ドラクエ2 〜風の塔にて〜


「きゃぁぁぁぁっっ・・・・!!」
本日十数回目の悲鳴がフロア中に響き渡った。
「だぁ〜っっ!!いちいちうるせぇぞ!プリン!」
カカオがプリンを怒鳴りつける。
「よく、『絹を裂くような』って言うけど、裂けないね〜。」
クッキーはとんちんかんな事を言ってカカオにどつかれた。
プリンは涙目になって震えている。
「だって…、だって…」
「せめて邪魔にならねぇようにあっちへ行ってろ!!」
カカオは叫んでプリンを突き飛ばし、リビングデッドの群れに切りかかって行った。

◆◇◆◇◆

風の塔。
3人は『風のマント』を手に入れるべくこの塔へやって来た。
しかし、この塔はゾンビ型のモンスター『リビングデッド』の巣窟だったのだ。
プリンにはそのグロテスクな姿がどうにもたまらないらしい。

――ザシュッ!!
カカオはリビングデッドの胴体を真っ二つに切り倒し、肩で息をついた。
「クッキー、そっちはっ!」
クッキーも『ギラ』の炎で最後のリビングデッドを焼き尽すと、にっこり笑ってVサインを出す。そして急いでプリンに駆け寄った。
「もう、大丈夫だよ」
「……あ、ありがとう…」
フロアの隅にへたり込んでいたプリンは、クッキーに手を引かれて、ぐすっと鼻をすすりながら立ちあがった。
「…けっ!」
カカオは面白くなさそうに2人を睨んだ。
「そんなんで俺達の仲間に入ろうなんて、甘ぇんだよっ!俺達はハーゴンを倒しに行くんだぜっ!?」
「…!な…っ」
プリンは何か言い返そうとしたが言葉につまり、無言でカカオを睨み返した。
「ま、まぁまぁ。止めなよ、しょうがないじゃん。ここはぼく達で何とかしようよ、カカオ。プリンは、女の子なんだから。ね」
クッキーが慌てて2人の顔色を交互に覗った。ここのところこんな役回りばかりだ。
「けっ。なぁ〜にが女の子だっ。そんな強ぇ女、見た事ねーぜっ」

◆◇◆◇◆

それは、風の塔へ向かう道中のこと。
「うわぁっ!『マンドリル』だぁ〜っ!!」
突如現れたモンスターの群れを見て、クッキーは青ざめて叫んだ。
マンドリルは大猿の一種で、とんでもない怪力を持っており、いくら攻撃してもなかなか死なない、強敵だった。
この旅で出会ったモンスターの中で、最も手ごわい相手だろう。カカオとクッキーは何度か教会送りにされた経験があった。
それが、一度に3頭も現れたのである。
「おい! どうする?! 闘るか!? 退くかっ!?」
「ど、どうしよう〜。プリンもいるし、ここは…」
2人が”逃げる”という選択をしかけたその時。
『――バギッ!』
プリンが叫ぶと、真空の刃の渦が巻き起こり、大猿の群れを襲った。
――ギャウンッ!!
あっという間に2頭の大猿は血まみれになって崩れ落ち、残る1頭も瀕死の状態で、あとはトドメを刺すだけとなった。

「す、すげぇんだな、お前」
「…そうかしら」
プリンは顔色ひとつ変えずに言った。
「すごいよ、だって、ねぇ、カカオ。ぼく達だけじゃ、全滅…」
「よけーなこと言うなっ!!」
クッキーはカカオに遮られた。
「…とにかく、すごいよ、プリン」
「ふふっ…ありがとう」
プリンは極上の微笑みを浮かべた。
カカオは、またしてもその微笑みに見とれ、ぼーっとしてしまったのだが。その後ろに見えるマンドリル達の死体を見て、思わず身をすくめプリンの顔と見比べてしまった。

◆◇◆◇◆

「な〜にが『きゃ〜』だっ。お前が『バギ』使ってさっさとあんな奴ら蹴散らしてくれりゃ、こんなダンジョンもうとっくに出てる頃だぜ!」
ダンジョンの最上階へ登りつめ、目的の『風のマント』を手に入れても、カカオはしつこく悪態をついていた。
「止めなって…!」
クッキーがカカオをたしなめる。
と、それまで黙っていたプリンが口を開いた。
「……『バギ』、使って欲しいのね」
「おう! ここへ来て何の働きもしてねぇんだ。MP余ってんだろ!」
すると、プリンの瞳が怪しく光った。(かのようにカカオには見えた。)
「わ、止め…!」
クッキーが止めるまもなく、
『――バギッ!』
プリンの呪文が炸裂した。
鋭い真空の刃がカカオを襲う。
「わぁぁぁっ!!」
カカオはとっさにその刃をかわした。が、わずかに顔をかすめて血が噴出し、髪の毛が数本宙を舞った。
「てっ、てめっ…」
カカオが起きあがって叫ぼうとした、次の瞬間。
――ギャオンッ!!
カカオの背後で、何かが倒れた。……『大ねずみ』だった。プリンが放ったバギは、カカオを背後から狙っていたモンスターを見事に仕留めたのだ。
「……」
カカオはしばしあっけに取られていたが、やがて事態を飲み込むと、顔を真っ赤にしてプリンを見上げた。
「…どう?使ってあげたわよ。『バギ』」
にこり、とプリンが微笑む。花のような微笑み。カカオには悪魔の微笑みに見えた。
「……か、かわいくねぇっ!」
カカオは眉を吊り上げ叫んだ。
プリンは上機嫌でくすくすと笑った。

――仲良くしようよ…。

クッキーはぼそりとつぶやいたのだが。2人には聞こえていないようだった。



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