ドラクエ2 〜竜王の城(前)〜


ラダトームを後にした一行が船へ戻る途中のこと。クッキーはふと立ち止まって海の向こうを指差した。
「ねぇ、あのお城って何処の国のお城かなぁ〜?」
「んん?」
見ると、海峡の向こう側の小さな島に、薄っすらともやのかかった古びた城がある。
カカオはごそごそと地図を取り出した。
(……書いてない)
「さあ? ……別に関係なさそうだしとっとと行こうぜっ。なんかボロそうな城だしな」
カカオは地図を道具袋に押し込み、すたすたと歩き出した。
「……あれは竜王のお城よ」
プリンが言った。そしてクッキーの隣に並び、目を細めて城を見た。
「へぇ〜。竜王ねぇ。…………竜王!?」
クッキーはすっとんきょうな声を上げた。
「竜王って…あのロトの伝説の!?」
「…違うわよ。ロトの子孫の伝説でしょ。そんなに大昔の話じゃないわ」
プリンはくすくすと笑った。
「へぇ〜すごいねぇ。ほんとにあったんだねぇ…。ぼく、ただの伝説だと思ってたよ〜」
クッキーは感心してため息をついた。
「…何かあるかもしれないわね。行ってみましょうか?」
プリンが言うと、クッキーはうなずき、カカオを振りかえった。
「あれっ?」
……カカオはすでに2人より100メートルほど先の地点にいた。
「何やってんだ、さっさと行くぜっ!? 次は竜王の城だろっ!?」

◆◇◆◇◆

竜王の城に一歩足を踏み入れた3人は。そのよどんだ空気に圧倒された。
「げ…」
「なんか、かび臭いね〜っ」
「……」
城には窓が無く、ひどく暗い。さらに壁や天井には薄気味の悪い彫像が埋め込んであった。
クッキーとプリンはそこから先へ進むのを躊躇した。
カカオは嫌そうな顔をしながらもすたすたと奥へ入って行った。
「…何やってんだ!? 置いてくぞ!?」
カカオが2人を振りかえった、その時。
カカオの背後、暗闇の中を、何か白いものが横切るのが見えた。白い影は一気にカカオに近づくと、後ろから攻撃を仕掛けてきた。
「カカオッ!」
――ガキィンッ!!
間一髪、カカオは剣でその攻撃を受け止めた。
「!? ミイラ男…っ!」
カカオは剣でミイラ男の腕をはじき返した。…すると、ミイラ男は包帯から覗く濁った目を怪しく光らせ、雑音のような笑い声を立てた。
カカオは鳥肌が立ってしまった。
ミイラ男は城の奥へとカカオを誘うように振りかえりながら歩き出した。その歩みはまるで氷の床を滑っているかのように速い。
「待ちやがれっ…!!」
カカオはミイラ男を追いかけて走り出した。
「あっカカオッ…!!」
クッキーとプリンは慌ててカカオを追いかけた。

しかし、ミイラ男とカカオはひどく速いスピードで城の奥へ奥へと進んでゆき、入組んだ通路に差し掛かった時、2人はついにカカオの姿を見失ってしまった。
「ど、どうしよう、プリン〜っ」
クッキーは立ち止まり、泣きそうな顔でプリンをみた。プリンも困った顔をしている。
「…もう。1人で突っ走るんだからっ…!」
2人はしばらくそこで立ち止まり思案した。
「しょうがないわ。2人で進みましょう。…ここまで来たら引き返すのも大変だし…カカオもこの中の何処かにいるはずだものね」

◆◇◆◇◆

クッキーとプリンは城の中をぐるぐるとさ迷った。城は迷路のような造りになっていた。
途中モンスターにも何度か出会い、なんとか戦闘には勝利したものの、やはりカカオがいないと戦況はかなり厳しいものになった。
プリンが疲れ果てて、「少し休みましょうか」と、言いかけたとき。
「あっ宝箱っ!」
突然クッキーが叫び、嬉しそうに走り出した。
「…さっきまで、あんなに疲れた顔してたのに…」
プリンは呆れた顔をして、それからくすっと笑うと、クッキーを追いかけた。
クッキーは少し大きめなその宝箱の前に辿りつくと、勢い良く蓋を開けた。そして目を見開いた。
そこには一本の立派な剣が納められていた。少しさび付いてはいるものの、まだ切れ味は良さそうである。
そして何よりも驚いたのは、柄の部分に、伝説と同じ、ロトの紋章が刻まれていたのだ……。
「こ、これって…!?」
クッキーは剣に手を伸ばした。両手で剣を握り締め、持ち上げる。
「うわっ…お、重い…っ!!」
クッキーは2,3歩よろめいた。
プリンが近づき、やはり驚きの表情を浮かべる。
「クッキー、これって…!?」
2人は顔を見合わせ……そしてほぼ同時に叫んだ。
「「ロトの剣!!」」

2人は狭いフロアの床に座り込み、間に置いた剣を眺めつつ、ロトの伝説について語り出した。
幼い頃、絵本代わりに繰り返し聞かされた、伝説の勇者ロトの物語。
クッキーは本当にただの絵物語だと思っていた。
「そっか……あのお話が本当だったってことは…、ぼく達は伝説の勇者の末裔なんだね……、本当に」
クッキーはしみじみと言った。
「…そうね。わたしは、あの伝説が史実に基づいていることを知っていたけれど……それでも、実際にこの剣がここにあると思うと、ドキドキするわ…」
プリンは剣の柄にそっと触れ、しげしげとその紋章を見つめた。
「…でも、ぼくには装備できそうもないや…」
クッキーは壁に寄りかかって苦笑いした。
(…カカオなら、きっと装備できるんだろうな…)

プリンが振りかえると、クッキーの表情は少し曇っているように見えた。
「……クッキー?」
クッキーは、わずかに眉間にしわを寄せ、じっと剣を見つめている。
「……? どうしたの?」
プリンが心配そうにクッキーの横顔をのぞくと、クッキーは表情を崩し、いつものように笑った。
「ううん。なんでも無いんだ。……ただ、少し…」
「…少し?」
(少し、カカオが羨ましいな…)
言いかけたそのセリフは、プリンの真っ直ぐな眼差しによって遮られた。クッキーは顔を赤らめ、うつむいて軽く首を横に振った。
「…ううん」
「?」
プリンは不思議そうな表情をしている。クッキーはすっと立ちあがった。
「…強くなる」
「…?」
「頑張るよ、ぼく!」
クッキーはいつになく力強く言いきった。そしてまたいつものように、にっこりと笑った。
プリンには、何故かその笑顔がとても眩しく見えた。
「…クッキー…」
プリンも立ちあがった。そしてクッキーと半歩の距離に近づいて、少し背伸びした。
「ちょっと、背、伸びた?」
「え、そ、そうかな?」
同じ年の男子の中に混じれば、クッキーは決して背の高い方ではない。
それでも、最近のクッキーは、最初に見た時に感じたような、少女のような印象は無くなっていた。
「…きっと、すごく強くなるわ」
プリンはクッキーを眩しそうに見つめた。
「ふふっ、わたしも、頑張らなきゃね」
プリンが微笑みかけると、クッキーも、照れたように笑った。
2人が見つめ合って、笑いあった、その時。

「てっ、てっ、てめぇ〜らぁっ!!! なんですぐ追いかけて来ねぇんだよっ!!」
すさまじい怒鳴り声と共にカカオが乱入してきた。ぜぇぜぇと肩で息をつき、ギロっと2人を睨みつける。
「おおお俺に、あんなクソジジィの相手させやがって……!!」
「え、ク、クソジジィって…!? 何のこと…!?」
クッキーがびっくりして言った。
「…なぁに!? まだラダトーム王の事を言ってるの……?」
プリンも怪訝そうに眉をひそめる。

「ちがうっ!! 竜王のひ孫のジジィだーーっ!!!」

カカオは思いきり絶叫した。



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