ドラクエ2 〜竜王の城(後)〜


ミイラ男に導かれたカカオは、城の最奥、玉座の間へと通された。
薄暗いその部屋には、白髪の老人が1人、ひっそりと佇んでいる。ミイラ男はカカオが部屋へ入るのを確認すると、スッと闇に溶けるように姿を消した。

老人の身体は細く、腕や首筋は骨が浮き出て、カカオが一発でも殴れば即死しそうに見えた。
「……よく来たカカオよ。わしが王の中の王、竜王のひ孫じゃ」
竜王のひ孫は、しわがれた声でそう言った。

竜王のひ孫は、カカオに、ハーゴンを倒してくれないか、と持ち掛けた。最近、ハーゴンの名がやたらハバを利かせているのが気に入らないらしい。
カカオは言われなくてもハーゴンを倒すつもりではあったが、竜王のひ孫に言われて行動するというのが癪にさわった。

「嫌だね」
カカオはふんっと鼻をならしてそっぽを向いた。
「……何!?貴様、ロトの末裔だろう……。悪を滅ぼすために働かんというのか…」
竜王のひ孫はずいっとカカオに歩み寄った。
姿こそ人間の形をしているが、その目は爬虫類のぬるりとした光を放っている。
「けっ…、『竜王』のひ孫の頼みなんか聞けるか」
竜王のひ孫は、自分の放った眼光にも動じないカカオを見ると、ゆっくりとため息をついた。
「……お前は心の狭いやつだな」
「…なんだとっ!?」
これを聞いたカカオは剣に手をかけて叫んだ。
「てめぇっ! 今ここで俺が成敗してやってもいいんだぜっ!?」
「…ほう。お前ごときが、1人で、このわしに敵うと思うか…?」
竜王のひ孫はカカオを小ばかにしたように笑った。
「んだとぉっ!?」
カカオは叫ぶと、すらりと剣を抜き放ち、竜王のひ孫目指して突進した。
「だぁーーーーっ!!」
「愚か者め…」
竜王のひ孫の目が怪しく閃く。
勝負は一瞬だった。

『イオナズン!!』

竜王のひ孫が放った呪文は大気中のエネルギーを一気に凝縮させ、すさまじい爆発を引き起こした!
辺りが白い光と衝撃に包まれる!
カカオは爆撃をモロに喰らった。叫ぶ間も無かった。
カカオは瀕死の重傷を負い、意識を失った……。

……カカオが目を覚ますと、老人の姿が霞んで見えた。
何事も無かったかのように静かに佇み、かすかに笑みを浮かべているその老人は、ゆっくりとカカオに近づいてくる。
「ふっふっふっ……どうだ、気分は。……ハーゴンを倒す気になったか…?」
カカオはガバっと起き上がった。
……あれほどの爆撃を受けながら、身体には、火傷ひとつ無かった。手足に何か違和感があるものの、痛みは感じなかった。
「俺は…」
カカオは自分の身体を見つめ、思考を廻らせた。
「お前が死ぬ直前に、わしがベホマで治してやったわ」
竜王のひ孫は高らかに笑った。そして、ひとしきり笑うと真顔になり、カカオの顔を凝視した。
しわがれた低い声で再びカカオに迫る。
「のう。わしはお前の成長に期待しているのじゃ……だから生かしてやった。……ハーゴンを倒せ」
「くっ…」
カカオは苦しげに顔を歪ませた。竜王のひ孫の目を必死に睨み返す。……が、やがてカカオはがっくりと肩を落とした。
遂にカカオは首を縦に振った。
竜王のひ孫は再び高らかに笑い、カカオは部屋を飛び出した。

これまでに無い、屈辱だった。

◆◇◆◇◆

「ど、どうしたの〜!? 何があったの?? りゅ、竜王の、ひ孫!?」
クッキーは目をぱちくりさせながら言った。
「ちくしょう、うるせえぞ黙れクッキー!!」
カカオは自分から切り出しておいて、何も語るつもりはないらしい。完璧な八つ当たりである。
プリンはますます怪訝そうに眉をひそめた。
「竜王の、ひ孫がいたの…?」
「……」
カカオは黙ったまま一点を睨んで俯いていた。
やがて。
「強くなる!!」
カカオは叫んだ。
「絶対、強くなってやる!」

クッキーとプリンは顔を見合わせた。
「ようし、そうと決まったらさっさとこんなとこ出るぞっ!」
そう言って、スタスタと歩き始めるカカオを、クッキーが慌てて呼び止めた。
「ちょっと、待ってよ、カカオッ!」
そして、例の剣を持ってカカオに駆け寄った。
「ほら、これ。強くなるには、必須アイテムだと思うな」
カカオは怪訝そうに剣を見た。
「? ……ん? これ…っ!?」
そしてその紋章に気づくと、剣を手に取り、構えてみた。剣はまるでカカオの為に造られたかのように、その手にピタリとフィットした。
「やっぱりね。カカオならきっと装備できると思ったんだ〜」
クッキーはにこにこと笑った。
「なぁ、これって…!」
カカオはプリンを振りかえった。
「うふふっ。ロトの剣よ。……大発見でしょう? クッキーが見つけたのよ」
カカオはまじまじと剣を見つめ、大きくひと振りしてみた。
――ブンッ!
「………!」
剣を振り下ろした姿勢のまま、カカオは動かなくなった。クッキーが不安げに声をかける。
「ど、どうしたの? カカオ?」

「……燃えてきた」
「え?」
カカオは剣を真上に高く振り上げた。
「やるぜっ! 打倒…!」
カカオの脳裏を先の老人の顔が一瞬よぎった。…が。
「ハーゴンだっ!!」
カカオは宣言した。
クッキーも嬉しそうにこぶしを振り上げる。
「お〜っ!」
「ええ!頑張りましょうっ!」



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