ドラクエ2 〜デルコンダル(後)〜





翌日。
3人はデルコンダル城コロシアムへ出向いた。

王はにやにやと笑いながら近づいて来て、プリンの肩に手を回した。
「わっはっは。逃げずに良く来た!!…プリン王女はこちらの特等席で一緒に見物だ。」
プリンは思わず払いのけたくなるのをぐっと堪え、さらに今にもデルコンダル王に飛び掛りそうなカカオの足を蹴り上げた。
「……!!」
カカオはうずくまり、口をぱくぱくさせて非難がましくプリンを見上げた。
「そっちのサマルトリアの坊主はどうする?」
「ぼ、ぼくも一緒に…!」
「ふん、まぁいいだろう」

王とプリン、クッキーは2階へ続く階段へ向かった。
プリンがカカオを振りかえった。
「カカオッ!」
カカオがふと顔を上げ、プリンと視線が絡み合う。
「…信じてるわ。」
プリンは真っ直ぐカカオを見つめ、口元に笑みを浮かべた。

カカオはにっと笑って片腕を上げた。
「まかしとけ!」

◆◇◆◇◆

大観衆に囲まれたコロシアム。
その真ん中に降り立ったカカオは真剣な面持ちでロトの剣を握り締めた。
「ぐるるるるる…!!」
巨大な檻の奥から獣の唸り声が聞こえる。

――ガシャンッ!

檻が開け放たれると同時に、キラータイガーはその巨体を躍らせ飛びかかってきた。
研ぎ澄まされた爪がカカオを襲う。カカオが上体を逸らすと爪は鼻先すれすれの空を切った。
避けられたキラータイガーは興奮気味に態勢を直し、今度は鋭い牙を剥き出しにして襲い掛かった。
カカオの頭など一飲みにしそうな巨大な口が迫り来る。
しかしカカオは迫る虎の牙を避けようとはしなかった。
「ガァッ!!」
鮮血が勢い良く吹き出る。キラータイガーはカカオの右肩口に喰いついた!!

「きゃあああっ!!」
「わっはっは!!勝負あったな!!」
2階正面の特別席で見守っていたプリンは両手で顔を覆い、デルコンダル王が嬉しげにガタンッと立ちあがった。
「待って!」
クッキーは闘場に目を落としたまま叫んだ。

キラータイガーの首筋から、天へ向かって突き出た、剣の切っ先。
勢い良く吹き出る血飛沫は、キラータイガーのものだった。
「だあっ!」
カカオが掛け声と共に剣を振り降ろすと、キラータイガーはずだんっとハデな音をたてて地面に転がり、ぴくぴくと痙攣した。

一瞬。場内が静まり返る。
「余裕!」
カカオは左手でロトの剣を高く掲げ、正面2階席を見上げにやりと笑った。

大歓声がコロシアムを包んだ…。

◆◇◆◇◆

「わっはっは!!まさかあのキラータイガーを倒してしまうとなっ」
玉座に腰掛けたデルコンダル王はさも愉快そうに笑った。
「約束だ、月の紋章を与えよう!」
王の前にひざまずいた3人が嬉しげに顔を見合わせる。
3人は月の紋章を手に入れた。
「そち達の活躍を期待しておるぞ!わしは強いものの味方だ!また来るが良い!」
王は楽しげにそう言った。
カカオはすくっと立ちあがった。
「2度と来ねぇよっ!!じゃあなっ!」
叫ぶなり早足に出口の扉へ向かった。プリンも立ちあがってにこりと微笑んだ。
「大変お世話になりましたわ、もうお目に掛かることも無いと思いますが…ごきげんよう」
「…じゃあ、ぼくも。失礼します王様」
3人はさっさと城を出ていった。

「むぅ…しかしあの王女は惜しかったのぅ…!!」

◆◇◆◇◆

そうして船へ戻ってきた3人だったが…。
「…いっってえぇぇぇーー…っ!!」
船へ戻るなりカカオは叫んで甲板に転がった。
「えっ!?何?どうしたの〜??」
クッキーが慌てて駆け寄る。プリンも驚いて心配そうにカカオを覗きこんだ。
青い服と、返り血で分かりにくかったが…、カカオの右肩口の血のしみはどんどん広がっていた。
キラータイガーに食いつかれた傷である。
「ちょ、ちょっとカカオ!どうして早く言わないのよっ」
プリンが青ざめて叫んだ。
「…あの状況で言えるかよっ」
カカオはうめきつつ言った。
「もう!見栄っ張りなんだから…!」
「いいから早く、回復…」
カカオの顔からはどんどん血の気が引いてゆく。
「もう…!…『ベホマッ』」
カカオの身体がピンクの光に包まれた。

「…ふぅ…」
カカオはほっとため息をつくと、半身を起こした。
「…助かったぜ」
そう言って疲れたような笑みを浮かべた。

「…もう…バカ…!」
プリンはそっぽを向いて腕組みし、ぶつぶつと呟いている。
「ま、まぁまぁ…」
クッキーが横からプリンをなだめるように声をかけた。

…しばらくぶつぶつと呟いてから、プリンはふとカカオに向き直った。
そして。
カカオの側にしゃがみこむと、小さな声で、囁いた。
「…カカオ…。……ありがとう…」
プリンの頬は、ほんのりと染まっていた。



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