ドラクエ2 〜波間の声〜





夜風がプリンの頬を掠めて、桃色の髪がふわりと舞った。
甲板の手すりに寄りかかり、空を見上げる横顔は、月明かりを受けて白く輝いている。
「プリン…」
呼ばれて、ゆっくりと、振り返った。
「…なぁに?」
(……。)
カカオは一瞬プリンに見とれて、それから頭を掻きながらプリンに近づいた。

「…まだ、寝てなかったのかよ」
カカオはプリンの横に並び、手すりに寄りかかった。
「ええ。…なんだか眠れなくって。」
プリンは少しうつむいて、海を眺めながら言った。
「そうか。」

波の音が規則正しく押し寄せる。
2人はしばらくの間、黙ってその音を聞いた。

「…カカオは、まだ寝ないの…?」
「ああ」
「…そう」

そしてまた波の音だけが繰り返される。

「ふあぁぁ…」
カカオは大きなあくびをした。
プリンがくすくすと笑う。
「やっぱり、眠いんじゃないの」
「…うるせえな」
「寝ないの?」
「寝ねぇよっ!」
カカオは怒ったように吐き捨てた。
プリンが驚いて瞳をまたたかせる。
「どうして怒るのよ?」
「…。」
カカオはぷいっと顔を背けた。
そのまま沈黙が続く。
(…なんなのよ…)

「いいわ。それじゃ、わたしはもう寝るから。おやすみなさいっ」
プリンはくるりと踵をかえし、船室へ向かった。
…と。
カカオも後に続いて歩き出した。
両手を頭の後ろで組んで大あくびをしている。

プリンは眉間にしわを寄せて振り返った。
「寝るの?」
「ああ」
カカオは目じりに浮かんだ涙を擦りながら答えた。

「なんなの!?さっきは寝ないって言って怒ったじゃないの!」
「…」
カカオは頭の後ろを掻きながら、渋い顔をして目をそらした。
「…」
「…」
「もう!いいわよっ」
カカオが何も言おうとしないのを悟ると、プリンはバタバタと大きな音をたてて船室へと消えた。

「…すぐ怒るのはどっちだ」
カカオは小さく吐き捨てた。

船を手に入れたばかりの頃。1人で甲板に出ていたプリンが、大王イカに襲われたことがある。
カカオは、大王イカの足に絡め取られてもがいていたプリンの姿を思い出していた。
(…二度とごめんだぜ)

カカオは再び大きくあくびをすると、今度こそ船室へと戻って行った。


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