ドラクエ2 〜ロンダルキアへ!〜





長い長い洞窟だった。
洞窟へ入る前日、最後に『ベラヌール』の街で宿を取ったのはもう何日前のことだろう…。
ハーゴンが居城を構える『ロンダルキア』へ続くというこの洞窟。意気揚揚とやってきた3人だったが、あまりに長く険しい洞窟に翻弄され、時間の感覚などとうの昔にマヒしてしまった。

「もう…出ましょうか。悔しいけど…」
ついにプリンが足を止め、ため息混じりにつぶやいた。
「…『リレミト』、する?」
クッキーも疲れ果てた表情で答える。
「おいっ!まだ」
カカオのセリフはそこで中断された。
突然。足元の床が音をたてて崩れ出したのだ。
――ミシミシッ
――ガァガガゴゴゴゴッオオオンン…ッッ!!!

「わあ〜っ」
「きゃっ」
「……ちいいぃぃぃっ!!!」

3人は階下のフロアへ落下した。

◆◇◆◇◆

「っっきしょぉぉおおっ!!!」
崩れた瓦礫の山に埋まっていたカカオが、瓦礫を吹き飛ばしながら叫んだ。
「これで何回目だっ?!」
激怒しながら瓦礫をかきわけ、埋まっていたクッキーを引っ張り出す。
「い、いたたたた…」
引っ張り出されたクッキーは、顔をしかめて腰をさすった。
プリンも何とか自力でずるずると這い出した。
「…はぁ」
深いため息をついてから、プリンは立ちあがった。

この洞窟にはこのような罠が無数に仕掛けられている。
階下のフロアへ叩きつけられるのも、初めてではなかった。

「ねぇ、やっぱり一度、態勢を立て直したほうがいいわ…。…戻りましょう?」
プリンはローブについた土を払いながら言った。

……ギシャン、ギシャン、ギギ…。
………ギギ…。

「?」
乾いた金属がきしむような音が聞こえた。
カカオがふっと音のした方を振り向く。そこには、いびつな人型をした機械が、大ぶりの剣を構えて立っていた。
「?!」
『キラーマシーン』。殺戮のために作り出されたという機械だ。その機械の頭らしき部分が、くるりとカカオの方向を向いた。
胸のあたりで小さな赤い光がちかちかと点滅した。次の、瞬間。
――ギシャギシャギシャァァァーーッ
キラーマシーンは高速で移動しカカオの真正面まで一瞬にして辿りついた。
そのままイキナリ剣を振りかぶり打ち下ろす。
「?!」
カカオはとっさに受け止めようと、ロトの剣を抜いた。
しかし身構えるより先にマシーンの剣がカカオの肩を切り裂いた!!
「が…っ!!」
カカオは衝撃にがくりと膝をついた。
しかしキラーマシーンはすぐさま第ニ撃を放つため剣を持つ腕を振り上げる。
――ガシィィンッ!!!
今度の剣は、何とか『ロトの剣』で受け止めた。
しかしカカオが力を込めるたび、切り裂かれた左肩からは鮮血が勢い良く噴出す。
「くぅっ…!…だあああーーっ」
――ガキキインッ
カカオはマシーンの剣をはじき返した!
「ギギ…」
胸の光がまたちかちかと点滅した。

「ベホマッ!!」
後方からプリンの声が響き渡った。
シュウシュウと音をたて、カカオの傷口が塞がって行く。
「…っしゃあっ」
カカオは両手でロトの剣を握り締め立ちあがった。

クッキーがキラーマシーンの背後から切りかかった。
「やあああーーーっ!」
――カキィィンッ
乾いた音をたて、クッキーの剣はあっさりと弾かれた。
再び切りかかるものの、鋼鉄の体はクッキーの攻撃を全く受け付けない。
「ううっ」
逆にクッキーの手の方が痺れてしまった。
キラーマシーンはクッキーに反応を示さず、何事も無かったかのように再びカカオに襲いかかかろうと動き出した!

「―来やがれっ!!」
カカオは襲い来るマシーンの刃を真正面から受け止めた。
――ガキィィィィインッ!!
金属の交わる音が洞窟内に響き渡り、衝撃に火花が散る。

「バギッ!!」
「ベギラマッ!!」
キラーマシーンの背後に回ったクッキーとプリンが同時に呪文を唱えた。
ギリギリと剣を交える機械の背に、電撃を帯びた真空の刃が命中した!!
―ボウウゥゥンッッ!!
鋼鉄の背にあたった呪文は、激しい爆発を引き起こした。
―しかし。機械は爆発をものともせず、一瞬たりともひるむ事なくカカオと力比べを続けた。

「そんなぁ…っ」
クッキーが絶望的な声を上げた。
疲れを知らない機械の体が持つ剣は、徐々にカカオを追い詰めて行く。
――ギリギリギリ
交わった剣が鈍い音を立てる。
「…ちっくしょう…っ!!」
カカオの後ろ足がじりじりと後退し始めた。

「カカオ、どいてっ!!」
プリンの叫びがカカオの耳に届いた。
「…!?」
カカオは勢いをつけ剣を弾くと、ふっと横っ飛びに飛びのいた。

プリンが高々と杖を振りかざす。
「『イ・オ・ナ・ズ・ン!!!!』」

――ズガガガガァァンンンッッッ!!!!

白い閃光が洞窟内を支配する!爆発の中心にいたキラーマシーンの体が宙に巻き上げられた!
ごうごうと音を立て舞いあがる土煙。

やがて土煙が納まると、キラーマシーンはフロアの中心に転がっていた。
はぁはぁとプリンが肩で息をつく。
「やったか…!?」
しんと静まり返ったフロアに、カカオのつぶやきが響いた。

「…ギギ…」
――ガシャアンッ
なんとキラーマシーンは何事もなかったようにむくりと起き上がった!
――ギシャギシャギシャァァァーーッ
そのままカカオ目指してハイスピードで突進してくる。

「そんな…!」
プリンが小さな悲鳴を上げた。

「…くっ!」
カカオがとっさに剣を構える。
――ガキキキィンンッッ!!!
またしてもカカオとキラーマシーンのつばぜり合いが始まった。
…と。
―ピキィンンッ
「…っ!!!?」
ロトの剣に亀裂が走った!
「んだとぉっ??!」
カカオの顔色が変わる。
キラーマシーンの力が強まった。
――パキィィィッ
あっけない音をたて、ロトの剣は折れてしまった!
「…っ!」
次の瞬間にはキラーマシーンの剣がカカオの肩から胸へざくりと振り下ろされた。
塞がったばかりの傷口が再び大きく切り開かれ真っ赤な血を吹き上げる。
さらに打ち下ろされるマシーンの凶刃に、カカオは為す術も無く切り裂かれた。
「―あああああっ!!」
鮮血を吹き上げながら仰向けにひっくり返ったカカオの喉元に、キラーマシーンの剣が真っ直ぐに振り下ろされる。
「―カカオッ!!」
プリンの悲鳴が響き渡った。

死んだ。
カカオは一瞬そう思った。
しかし。

――ガキィィィィィイン!!!!

思わず閉じた目を開けて見ると、クッキーがキラーマシーンの剣を剣で受け止めていた。
「カカオッ…くぅ…ぼくじゃ、持ちこたえらんないよ…っ…『べホイミ』ッ」
片手で剣を受け止め、必至にもう片方の手を伸ばし、カカオに回復の呪文をかける。
唱えると同時に、クッキーは力負けして吹っ飛ばされた。
カカオはがばっと起きあがった。
「クッキーッ、大丈夫かっ?!」
慌ててクッキーに駆け寄る。
「うんっ!カカオ、これ使って!!」
クッキーが手にしていたのはギラリと黒光りする、大ぶりの大剣だった。
クッキーはカカオに剣を押しつけた。
「これは…っ?!」
「いいから…来るよっ!!」
――ギシャギシャギシャァァァーーッ

キラーマシーンが剣を振りかぶり高速でカカオに突進する。
カカオは剣を構えた。
「…そう何度もっ」
――ギギビュウンッ!!
キラーマシーンの振り下ろす剣がそれまでカカオのいた空を切った。
カカオは宙に飛びあがり…
「…らああああああっ!!!」
キラーマシーンの胸部に剣をつき立てた!!
――バチバチバチッ
赤い硝子部分が砕け、黒い煙がぶすぶすとくすぶる。
「今だカカオっ、稲妻を呼んでっ!!」
「…?!稲妻よっ来いっ…!!!」

――ガラドドォォンンッ!!!

何も無い空間から呼び出された雷光が、キラーマシーンの胸部に刺さった剣に命中した!
「…ギ、ギ…」
ぶすぶすと黒煙を上げるキラーマシーンから、バチバチと火花が散った。
やがて。
――キュウゥゥゥン…

あたりがしんと静まり返った。

「…か、勝った……」
カカオがつぶやく。
「よ、良かった〜」
クッキーは心底ほっとして、床に手を付きへたり込んだ。

プリンがパタパタとカカオに駆け寄った。
「…大丈夫っ?!カカオ…ッ」
心配そうに、まだ血の滲む胸部に手を当てる。
「!…ってぇっ…!」
まだ傷口は完全に塞がっていなかった。
「ベホマッ」
プリンが唱えると、ピンク色の光に包まれたカカオの傷はみるみるうちに塞がっていった。
プリンの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

◆◇◆◇◆

3人は再び上の階を目指して歩きはじめた。
「なぁクッキー、この剣、どうしたんだ?」
手にした大剣をマジマジと見つめ、カカオが尋ねた。
「…あのね、プリンのイオナズンで、ぼくフロアの隅っこに飛ばされちゃったんだ〜」
クッキーは後ろ頭に手を当てて照れたように笑った。
「そしたらね、宝箱があったんだよ〜」
「…」
「それでね、その剣って本で見た事があって…」
「『稲妻の剣』ね…」
プリンが口を挟む。
「うん!やっぱりそうだよね〜っ!ぼく、きっとそうだと思ったから、稲妻を呼んでって…」
にこやかに笑ってカカオを見上げたクッキーは、そこで思わず口をつぐんだ。
カカオの表情が険しくなっている。
「…おいクッキー、てめぇ…」
「……え…?」
クッキーは思わず冷や汗をかいた。
「俺が戦ってる時に宝箱に手ぇだしてたのかよっ!!!」
カカオの怒鳴り声が響く。
「!!ご、ごめんよ、ぼく、ぼくつい〜っ!」
クッキーは大慌てでわめいた。
カカオはクッキーをぎろりと一瞥し…それから、ふっと笑った。
「…ま、いいか。今回は。助かったぜクッキー、お前のおかげだっ。さんきゅーなっ!」
カカオはクッキーに手を伸ばし、茶色の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
「!……う、うん〜」
一瞬きょとんとしたクッキーが、パッと顔を輝かせて笑う。
「…ふふふっ」
プリンは眩しそうに2人を見上げた。



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