ドラクエ2 〜午後のココア〜


ロンダルキアのほこらから、『ベラヌール』へと戻って来たカカオとプリンは、街の教会にクッキーの亡骸を預けた。
そして『世界樹の葉』を探すべく、再び船旅を始めた。
船は一路東を目指す・・・

◆◇◆◇◆

一方その頃。サマルトリア城では・・・。

「ふんふふ〜ん♪…いいお天気♪」
サマルトリア王女ココアは、城のバルコニーでティータイムを楽しんでいた。
兄のクッキー達が旅に出てからそろそろ1年が経とうとしている。
ココアは12歳になっていた。
柔らかい春の日差しを受けて、ココアの長い茶色の髪はつやつやと輝き、時折風に吹かれてさらさらとなびく。

ココアは上機嫌で、テーブルの上のケーキにフォークを差した。
ちょうどその時。
「ココア姫!」
若い兵士が慌てた様子で駆けてきて、ココアの側にひざまづいた。
「部屋の中へお戻り下さいっ」
「?どうして?」
「モンスターの群れが攻め込んでまいりました」
「…また?!」
ココアは眉を釣り上げた。
がたんっと椅子から立ちあがり、バルコニーから外の様子を覗う。
スライム、ドラキー、山ねずみ、アイアンアント…。それらが群れをなして城門に押し寄せていた。
どれも大した敵ではないが、数が多いので兵士たちも苦戦している。

「もぉう〜!!一体どれだけいるのよっ!!」
バルコニーから部屋を通り抜けばたばたと走り出す。
部屋を通り掛かりに、ココアは『聖なるナイフ』を手に取った。
「ダメです!姫!」
「うるさ〜いっ!!」
兵士が慌てて引きとめようとしたが、ココアはそれを振り払って走り去って行った。

◆◇◆◇◆

裏口から城を出たココアが、城門の前に辿りついた。

――ガキィンッ
――ザシュッ
「わあああっ」
「グギャアアアッ」

城門の前は兵士たちとモンスターでごった返し、あちこちで悲鳴や怒号があがっていた。
転がっている死体は、大抵モンスターのものである。が、中には負傷してうずくまっている兵士もいる。

「みんな、何してんの、どきなさいっ!!」

ココアは戦場の中心にずんずん割って入っていった。
兵士たちの間にどよめきが起こった。
驚きと期待が入り混じったような目でココアを見つめる。

ココアは両手を広げるとキッとモンスターの群れを睨みつけて叫んだ。
「『ベギラマッ!!』」
閃光が走った。
ココアの周辺にいたモンスターが次々に電撃に焼かれて断末魔の悲鳴を上げ、黒焦げの死体となっていった。

ココアは聖なるナイフを持った手を高く掲げ、兵士たちを見て叫んだ。
「さあっ!一気に片付けるわよっ」
兵士たちはにわかに活気づいた。
「うおおおっ!」


数ヶ月前から、月に2,3度、このようにモンスターが押し寄せてくる事がある。
ココアはその度にこうして戦闘の指揮を取りモンスターを撃退していた。
しかし、いくら撃退しても、モンスターは再びやってくる。押し寄せる間隔は、だんだんと短くなっているようであった。

◆◇◆◇◆

先ほどココアに声をかけた若い兵士は、玉座の前にひざまずいていた。
「…王様、良かったのですか…?」
「うん。いいだろう。アレはやっぱりロトの血を濃く受けついでいる様じゃのう…、頼りになるわい」
白い口ひげを蓄えたサマルトリア王は目を細め、複雑な表情を浮かべていた。
兵士は、王の命令を受け、表向きはココアに避難をうながしていた。が、王は、ココアが事態を知れば直ぐに飛び出して行くだろうことを計算ずみで、そうさせていたのだ。
「はい。全く、仰せの通りです。…私も、行ってまいります!」
若い兵士は目を輝かせて立ちあがり、城門を目指して駆けて行った。

王はふうっとため息をついた。
「クッキーは無事にやっておるじゃろうか…アレは、わしに似て元々戦闘向きではないからの…」
王は立ちあがると、城門の見える窓際へ寄った。

城門の前ではココアを中心に、戦いが繰り広げられていた。
戦況は圧倒的に優位で、そろそろ収束へ向かおうとしている。

「ふむ。我が娘ながら、ようやるのう…。……。」
1年前は、まだ若すぎると言う事で、旅に出すことなど微塵も考えなかった。
しかし。
「…ココアを行かせたほうが、よかったかもしれん…」
王は再びため息をつき、玉座のほうへ戻って行った。

◆◇◆◇◆

「さあ、これでお終いよっ!!――『バギ』ッ!!」
真空の刃が駆けまわり、僅かに残っていたモンスターの群れを切り裂いた。

兵士たちが口々に喜びの声を上げる。
「やりましたね、姫!」
「姫は戦いの女神のようですな!」

ココアはにっこり笑ってそれに応じた。

◆◇◆◇◆

ココアは自室に戻ると、汚れてしまった白いドレスの裾をバッと捲り上げた。
細く白い、すらりとした足の、ふくらはぎの部分に、ざっくりと深い傷がついて、血が滲んでいる。
兵士達には気づかれないようにしていたが、戦闘でつけられた傷である。
「…ううっ…」
ココアは痛そうに顔をしかめた。
目に涙が浮かぶ。

「お兄ちゃん…元気でやってる…?」
ココアは傷口に薬を塗りこみながら、つぶやいた。
「…ココアは、がんばってるよ…。」
溢れそうになる涙をごしごしと擦った。
剣や魔法に優れ、兵士たちに頼りにされる程の存在になっても、まだ12歳である。
モンスターの恐怖も、兵士たちの信頼も、幼いココアには荷が重かった。

ココアは再びバルコニーに向かった。
椅子に座り、食べかけのケーキに手を伸ばす。ケーキを一くち口にいれ、フォークを口にくわえたまま、空を見上げた。
「きっと、元気でやってるよね……」
雲が流れていた。
そう言えば、兄は、ボ〜っと雲を眺めているのが好きだったのを思い出す。
ココアはくすっと笑った。
「はやく帰ってきてね…お兄ちゃん…」



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