ドラクエ２ 〜蘇生〜
カカオ達を乗せた船が『ベラヌール』に辿りついた。
船を降りたカカオとプリンが駆け足で街に向かう。
教会へ。――クッキーの元へ。
カカオはけたたましい音をたてて教会の扉を開けた。
人気のない、がらんとした教会に、神父が１人たたずんでいる。
「おや、王子様がた、戻られましたか」
人の良さそうな神父が声をかけてきた。
「おう！」
カカオはバタバタと神父の横を走りぬけ、教会の奥、十字架の下にあるひつぎの前にしゃがみこんだ。
プリンは神父に軽く会釈し、カカオの後に続いた。
「…待たせたな、クッキー…」
カカオはひつぎの蓋を開けた。
白い顔のクッキーが、まるで眠っているかのように横たわっている。
プリンはひつぎの側にひざまづき、あらかじめすりつぶして水で溶いておいた『世界樹の葉』を取り出した。
そして、硬直しているクッキーの唇に、無理矢理液体を流し込んだ。
「…お願い…」
プリンがつぶやき、２人は祈るような気持ちでクッキーを見つめた。
１秒。２秒。…３秒。
クッキーのまぶたが、ピクリと動いた。
続いて、唇が僅かに震える。
「…んん…」
その唇から、うめきが漏れた。
カカオとプリンは同時に大声で叫んだ。
「クッキーッ！？」
その瞬間、クッキーの目がぱっちりと開いた。
「ええっ！？な、なに〜っ？？！」
クッキーは驚いた様子で跳ね起きた。
◆◇◆◇◆
「えっ…と、あれ？ぼく…？？」
目の前には、目に涙を浮かべて自分を見ているカカオとプリンがいる。
プリンはともかく、カカオが涙を浮かべるなど、ただごとでは無い。
「え、え〜と？」
クッキーは、まだぼんやりしている思考を必死に廻らせた。
カカオが突然叫び出した。
「てめぇクッキーこのやろ…っ！！！」
ぐいっとクッキーの胸倉を掴み、腕を振り上げる。
「わああっ」
瞬時に、なぐられる、と思ったクッキーは、思わず目をつぶった。
が。
カカオはすぐに、
「ちきしょうっ」
と言って、手を離し、くるりとクッキーに背を向けた。
ごしごしと顔をこすっている。…どうやら涙を拭いているらしい。
「…………」
クッキーは呆然として口を開けたまま、カカオの背中を見ていた。
すると、今度はプリンが目に涙を浮かべてクッキーの顔を覗きこんだ。
「…クッキー、覚えてないの…？あなた、ロンダルキアで、ギガンテスに襲われた時に…、…メガンテで…」
クッキーはそれで全てを思い出したようで、ぱっと表情を輝かせた。
「ああ！そっか〜、そうだったね〜。…。あれ？」
そして今度は不思議そうに自分の体をしげしげと眺め、両手をぶらぶらさせた。
「でもなんでぼく…。あれ？…死んでないの〜？？」
プリンは唇をかみしめ、クッキーを睨んだ。
「…クッキー…」
低い声で名前を呼ぶ。
「え？」
クッキーが顔を上げる…と。
――ぱっち〜んっっ！！！
プリンの平手が飛んで、クッキーの頬に真っ赤な痕をつけた。
「…死んでたわよ…っ」
プリンはうめくように言った。
クッキーは驚きすぎて、一瞬何が起こったのかわからなかった。
「な、な、なに〜っ？！？」
やっと殴られたという事に気づき、目に涙をいっぱいためて、両手で左頬を押さえる。
しかしプリンは構わずに叫んだ。
「ばかっ！！」
カカオはぎょっとして、大慌てで止めに入った。
「ななな、なんだよプリン？！」
プリンはこれまで何度もカカオを殴っていたが、クッキーを殴った事は無かった。
プリンはカカオに構わずクッキーを睨み…それから一気に顔をぐしゃっとゆがませた。
大きな赤い瞳から、大粒の涙がぼろぼろ零れ落ちる。
プリンはヘナヘナとその場に崩れ落ち、ぺたんと座り込んで子供のように泣きじゃくり始めた。
「え、プ、プリン…！？」
クッキーが心配そうにプリンの側ににじり寄る。
プリンは嗚咽に声を詰まらせながらも、必死に言った。
「…もう、もうあんな事しないで…！絶対に、絶対にしないで…！！」
そして、寄りかかるようにして、クッキーの肩に額を押し付けた。
クッキーは、ようやくプリンの怒っていた訳が分かった気がした。
おずおずと手を伸ばし、プリンの背をそっと撫でる。
「…ご、ごめん。…ごめんね、プリン…」
プリンはクッキーの肩に顔をうずめ、そのまましばらく泣いていた。クッキーは、震えるプリンの背中を優しく撫で続けた。
カカオは。
複雑な表情でその光景を眺めていたが…そのうち、２人を残して教会を後にした。
「俺は、先に宿に行ってるぜ…」
一応、そう声をかけておいた。
◆◇◆◇◆
「あ〜あ」
カカオはぼんやり空を眺めつつ、街道を歩いた。
「…やっぱりそうなんじゃねぇか」
ぼそぼそと独りごちる。
「ちぇっ…俺だって１回死んでんのになぁ…」
カカオはため息をついた。
しかし直ぐに晴れやかな顔になり、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「…ま、生き返って良かったな…！」
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