ドラクエ2 〜決戦の前に〜


長い長いロンダルキアの洞窟を、やっとの思いで再びくぐり抜けた3人は、今また雪原の上に立っていた。

「あぁーっ、ようやく着いたなっ!」
カカオが上機嫌で2人を振りかえる。
はじめてロンダルキアへやって来た時よりは、まだ3人には少し余裕があった。しかし気は抜けない。
「絶対このまえのような事にはならねぇぞ!」
気合を入れて叫ぶと、
「うん〜」
クッキーがにこにこと笑ってこたえ、プリンがこくりとうなずいた。
「ええ。絶対に…!」

そうして、3人は再び雪原を歩き始めた。
もうすっかり夕暮れで、一面の雪が夕日を照り返して、あたりはオレンジの光に包まれている。
しばらく歩くうち、3人は前回たどり着く事が出来なかったほこらへ、無事たどり着く事が出来た。

一行はほこらの神父の好意で、そこに1晩泊まる事になった。

◆◇◆◇◆

静かな暗いフロアに、暖炉の炎がちらちらと揺らめいている。
3人は床の上で、毛布にくるまって寝転んでいた。
ちらちら揺らめく炎にあわせ、3人の姿も揺らめく。
「ねぇ…2人とも…。もう寝ちゃった…?」

プリンが仰向けの姿勢のまま囁いた。
両隣にカカオとクッキーが寝ている。
「…なんだ…?」
カカオが返事して、プリンの方に身体を向けた。クッキーはこちらに背を向け、すやすやと眠っているようだ。

「ねぇ…明日には、いよいよハーゴンと決戦ね…」
言いながら、プリンもカカオの方に顔を向けた。
「…そうだな。」
「……」
プリンとカカオはお互いに顔を見合わせながら、しばし黙した。
「…怖いのか?」
「…ううん…」
プリンはそう答えたが、その表情は陰りを隠せない。

カカオは炎の明かりに揺らめくプリンの顔をじっと見つめた。
「…安心しろよ。この俺がいるんだぜ?…勝つに決まってんだろ!」
カカオが語気を強めたので、プリンは不安げにクッキーの方を振りかえった。
「起きちゃうわよ…」
「…おっと」
カカオは慌てて声をひそめ、囁き声で続けた。
「…とにかく。明日で全部終わりだ…っ!全部きれいに片付けて、3人揃って城へ帰るぜ…っ!」
「ええ…」
プリンはくすっと笑った。
「あなたはいつもそうね…」
「…あ?何がだ?」
プリンはくすくすと肩を震わて笑い、苦しそうに声を押し殺している。
「…ごめんなさいね。」
「?」
カカオが怪訝そうに眉をひそめる。
「…カカオ、今までごめんなさい」
「あ?」
怪訝そうな顔のカカオを、プリンは真っ直ぐ見つめた。
「全ては明日。明日、戦いを終わらせてからよね…。……もう迷わないわ」
「??」
カカオは何の事を言われているのか分からず、首を捻った。プリンはにっこりと微笑んだ。
「…頼りにしてるわ。頑張りましょうね、カカオ…。」
「…」
カカオは首を捻ったまま、訝しげに眉をひそめる。
「ふふっ…おやすみなさい」
プリンはまた天井の方に顔を向けて、そっと目を閉じた。
「……おう…」
カカオは納得いかない様子であいまいな返事を返した。
そのまましばらくプリンの横顔をじっと見つめ…それから急に、むくりと半身を起こした。
プリンの顔を覗きこむ。
すっと手を伸ばし、指先で、その額をつんっと突ついた。
「おいプリンッ…!」
プリンの瞳がぱちっと開いた。
「な、なに…?!」
カカオは驚いているプリンを見下ろして、にやりと笑った。
「おまえの事も、頼りにしてるぜ…?」

プリンはぱちぱちと数回瞬きをして…それから嬉しそうに微笑んだ。
「あは…っ、ありがとう…」
それは。いつもの優美な微笑みとは違う、くだけた笑顔。
頼りない暖炉の明かりのせいで、プリンには見えなかったが、カカオは頬を赤らめていた。

◆◇◆◇◆

眠りにつく前、プリンはぼんやりと考えた。

―もし、戦いが終わったら。世界が平和を取り戻したなら。
ムーンブルクへ帰らなければ。まだ生き残っている人はいるはずだから。わたしを待っている人々が、いるはずだから。
わたしは、ムーンブルクの王女。カカオはローレシアの王子で、クッキーはサマルトリアの王子。
もともと、戦いが終われば別れ別れになる運命なのだ。
迷う必要など最初からないし、今はそんな場合ではない。


明日にはハーゴンの居城へおもむく。この夜が終われば、決戦の日がはじまるのだ――



<もどる|もくじ|すすむ>