ドラクエ2 〜ラストバトル〜


カカオが跳躍して振り下ろした剣がシドーの腹をえぐった。
黒ずんだ赤い血が吹き出し、シドーが咆哮する。
『ギシャアァァァーーッ!!!』

すたっと着地したカカオがシドーを振りかえり、そのままの姿勢で叫ぶ。
「手応えありだっ!!おいクッキー、プリン!倒せるぞ!!」

立ちすくんでいたクッキーとプリンがカカオの声に我にかえった。

シドーがぎらぎらと血走った目でカカオを睨む。
カカオはとっさに攻撃に対して身構えた。しかし。

『ベホマ』

脳に直接響いて来るような、おどろおどろしいシドーの声が呪文を唱えた。
「!?」
驚く3人が見上げる中、シドーの腹の傷は見る間に回復してゆく。

「ちぃ…っ!」
カカオは苦々しげに吐き捨てた。
「…なら攻撃し続けるだけだっ!!」

「イオナズン!!」
プリンの呪文がシドーの身体を中心に白い光の球体をかたどった。それは激しい爆発を引き起こす…はずだった。
『グアオオオオッッ!!!』
シドーの咆哮1つで呪文による爆撃はあっさりとかき消された。
「そ、そんな…!」
プリンは愕然とした。今身につけている呪文の中で最大最強の呪文である。
それがかすり傷ひとつ負わせる事なくかき消されるとは…。

「プリンっ!」
カカオがシドーに向かって走りながら叫ぶ。
「回復に回ってくれ!」
プリンははっとしてうなずいた。
「分かったわ!」

「だぁあああーっ!」
カカオが叫びとともにシドーに切りかかる。
しかしシドーは思いがけず素早い動きでカカオの攻撃を避け、鋭い爪でカカオの身体ごと剣を弾き飛ばした。
「ぅあああーっ」
――ダンッ
カカオの身体が激しく壁に打ちつけられ、床にどさっと落ちる。
身体中の骨が砕けるような衝撃だった。
プリンが直ぐさま駆けより、回復の呪文をかける。

『・・我ハ破壊ス・・・全テ・ヲ・・・・・』

地の底から響き脳天に突き刺さるようなシドーの声。

クッキーは身震いしながらも必死に補助系呪文を唱えた。
「スクルトッ!」
3人を薄い光のオーラが包んだ。

シドーはギラリとクッキーを睨み、その尻尾を叩きつけた。
――ズシャァッ!!
「わああーーっ!」
腹を殴りつけられたクッキーが空を飛び、ごろごろと床を転がった。
「…ぅあっ…げほっ!!」
顔面を打ちつけたクッキーの鼻から大量の血が流れた。
「…うぅ…っ。べ、べホイミッ」
なんとか自力で回復する。
もし、『スクルト』で守備力を上げていなければ死んでいたかもしれない。
それでも2回連続で攻撃を食らえば、死は免れないだろうと、クッキーは確信した。

「だぁーっ!」
カカオが必死に切りつける。クッキーも剣を取り加勢する。
プリンは傷つく2人の身体を必死に回復させつづけた。それがどれだけ繰り返されたのか。

『・・生ニハ・・・・死・・・!!』

突如、シドーの声が響き、その爪が伸びてプリンを襲った。
「!!」
突然の事にプリンの防御が間に合わない。

シドーの爪がプリンの身体を捕らえた。
「きゃああああーっ!!」
その手の中でギリギリと締めつけられて、プリンは身悶えた。

剣を振りかざすカカオが必死で叫んだ。
「プリンを離せっ!!!」

「あ…あ…っ!」
ミシミシッ…っと嫌な音がして、プリンの唇の端から血が一筋すっと流れた。
「プリンーッ!!」
クッキーが絶叫する。叫びながら、禁断の呪文が脳裏を掠めた。
(…『メガンテ』で…)
しかし同時にプリンの言葉もよみがえる。
(…”もう絶対にしないで”…)
「…でも…!」
クッキーが苦悩する横で、カカオが雄叫びをあげた。

「ぉらぁああああーっ!!」
一気に駆けだし、シドーの肩まで登り詰める。そのまま跳躍してプリンを握っている右中段の腕を切り落とした!!

――ザンッッ!!!

切り落とされた腕とともにカカオとプリンが床にたたきつけられる。
カカオは直ぐにむくっと起きあがった。
「クッキーッ!プリンを…!!」
「うん!」
すぐさまクッキーはプリンに駆けよって回復した。
「うう…」
プリンがうめきながら身を起こす。
「…破壊の神…」
プリンは絶望的な声でつぶやき、シドーを見あげた。

「らあああーっ」
カカオの剣がまたシドーの足を一本切り落とした。
同時に尾の攻撃を受け叩き落されたカカオが床を転がってうめく。

「回復を…っ!」
プリンは必死に立ちあがった。駆け出そうとして、ふとクッキーを見下ろした。
「クッキー、カカオの回復、お願い!」
「えっ!う、うん!」
クッキーが慌ててカカオに駆け寄る。
「カカオ、しっかり…!」
クッキーがカカオを助け起こし、べホイミを唱えた。
プリンは両手で杖を握りしめ、意識を集中し始めた。

「くっそぉ…っ!」
カカオはクッキーの回復呪文を受けながら、朦朧とする意識の中考えた。
もう何十回切りつけた事か。しかしシドーは今だ倒れない。
(プリンとクッキーのMPが尽きて、俺の体力が尽きるのが先か、シドーの体力が尽きるのが先か…)
「とことんやってやるぜっ!!!」
カカオはクッキーの呪文で回復されると、直ぐにまた起き上がって走り出した。

プリンが杖を高く掲げた。激しい魔力が吹き上げ、桃色の髪を逆立てている。
カカオとクッキーが驚いてプリンを振りかえった。シドーもプリンに意識を寄せる。

「2人とも…!失敗したらごめんなさい…!!」

魔力が詰めこまれた杖が振り下ろされ床を叩く!

「パ・ル・プ・ン・テ!!」

――瞬時に空間がよじれた。七色の光が上に下に流れる。
不協和音がフィオンフィオンと耳を突く。

その場にいた全員が、一瞬だけ気を失ったのかもしれない。
カカオは気がつくとシドーの上空を落下していた。

無意識の内に手に持った剣に力がこもる。カカオの身体は薄桃色とも薄黄色とも見えるオーラに包まれていた。
「ああああーっ!!!!!!」
――ズザンッ!!
両の手で握った剣が、シドーの眉間に突き刺さった!

『グガァアアアアアーーッ!!』

柄まで深々と突き刺さった剣に、カカオがぶら下がっている。
カカオはシドーの顔面に足をかけて、体制を立て直し、渾身の力を込めてその額をえぐり続けた。
シドーは振り払おうと激しく首を振るった。
その動きが徐々に鈍くなる。
吹き上げる血飛沫でフロアはまさに血の雨が降っていた。

『アアアァ……』

シドーの動きが止まった。
…と同時にカカオの手から力が抜け、するりと剣から離れた。ふっと目が閉じて仰向けに身体が落下し始める。

魔力を使い果たし、床に座り込んでいたプリンが顔を上げた。
クッキーは気力を振り絞って立ちあがり、落下するカカオの側に駆け寄った。

――ドドドオォォ…ンンッッ!!
激しい音をたててシドーの巨体が倒れた。


静寂が辺りを包み込む………。

◆◇◆◇◆


どれくらい時間がたったのか。カカオが身を起こし、プリンもふらりと立ちあがって2人の元に歩き出した。

「…勝った…?」
カカオの側に座り込んでいたクッキーがぽつりとつぶやいた。

カカオはぐったりと疲れきった顔を緩ませて、楽しそうに笑った。
「ひひ…っあっはっは…っやったぜ…っ!」



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