ドラクエ３ 〜夜の街〜
窓の外に喧騒が聞こえる。
目を覚ましたパエリアは、まだ眠い目をこすって身をよじり、ベッドサイドのカーテンを開けてみた。
もう夜も更けたというのに人の往来が激しい。
（……？ 祭りでもやっているのか…？）
パエリアはふと興味を覚え、ベッドから這い出した。
――こんこん。
仲間たちがいる隣の部屋をノックする。
「…起きているか…？」
「……パエリアさん？」
驚いた様子で顔を出したのはカシス。
「どうしました？」
手には読みかけの本を持っている。どうやら読書中だったようだ。
「……。外が、騒がしいようだが…」
ああ、とカシスは微笑む。
「この街は、毎晩こうなんだそうです」
「……？」
パエリアは不思議そうに首をかしげ、カシスを見上げた。
「ふふ、行ってみましょうか？ライスさんとセロリさんは、出かけましたよ」
「……」
パエリアがうなずいて、２人は宿の外へ出た。
◆◇◆◇◆
「あれが噂のベリーダンスですね」
開け放たれた劇場の扉から中を覗くと、たくさんの人々の頭の向こう側に、薄布を纏った女たちが踊っているのが見えた。
腰を振ってくねくねとした踊り。
パエリアはすっと頬を染めた。
「…入ってみますか？ 多分ライスさんもセロリさんもここにいると思いますけど」
カシスが微笑んで尋ねる。
「……」
パエリアは扉の前に立ち尽くし、じっと踊り子たちを見つめた。
それから１歩後ずさり、ぶんぶんっと首を横に振った。
「いい」
赤い顔で俯いてしまう。
カシスはくすくすと笑った。
「それじゃ、他へ行きましょうか」
２人が向きを変えたとき。
正面からやってくる見なれた２人の姿が目に映った。大きな戦士に小さな魔法使い。
「…やっぱりなぁ、残念だったなぁセロリ……くっくくっ…」
「うるさいっ！ お前だって興味深々だったくせにっ」
「ばーか、俺は最初から怪しいと思ってたんだよ」
「…なんだよっ、行け行けって、けしかけたのはお前だろっ！！」
「はははっ、あ〜俺が行かなくて良かった」
「このぉ〜っ！！」
仲が良いのか悪いのか。２人はまたケンカ中のようである。……セロリが一方的に怒っているだけのようだが。
放たれた『メラ』の炎を、ライスがひょいっと交わしたところで、パエリアは声を掛けた。
「……何を揉めてる？」
「おっ、パエリア」
ライスが意外そうに振りかえる。セロリはうげっ、と顔色を変えた。
「なんだ、珍しいな、夜遊びか？」
ライスが尋ねると、
「たまには良いでしょう。社会見学ですよ」
カシスが保護者よろしく言った。パエリアはむっとしてカシスを睨む。
「……」
「ははっ社会見学ねぇ……そんならセロリなんかよぉ、ぱふぱ…」
「ばっばば馬鹿やろぉっ！！！ 殺すぞジジィっ！！！」
慌ててライスに飛びつき青ざめるセロリ。
「ひっひっひ…」
ライスは嫌らしく笑う。
「？」
カシスとパエリアは不思議そうに顔を見合わせた。
「ま、それはさておき」
ライスはちろっとセロリを見下ろしてから、劇場を指差した。
「俺達はベリーダンスを見に行こうと思ってるんだけどよ、行くか？」
◆◇◆◇◆
間近でみる踊り子たちはそれは妖艶な舞いを見せてくれた。
飛び散る汗と呼気が渦巻き異様な熱気をかもし出す。
パエリアは断ったのだが、結局ライスに押しきられて来てしまった。
「……すごいな」
思わず、つぶやく。パエリアは頬を染めて魅入っていた。
……その女たちは、自分に無いものを持っている。
流れる長い髪。豊かに揺れる乳房。きらびやかに音を奏でる装飾品。
ほう、とため息をつく。
隣に並んだセロリも顔を真っ赤にして食い入るように見ている。
カシスは常のままただ微笑んでいるだけだった。
……と。
ライスがパエリアの耳元に顔を寄せた。
「なぁ、パエリア。あんたもやってみたらどうだ？」
ニヤリ、とイタズラっぽい笑み。
パエリアはキッと振りかえり、ライスの肩をどんっと押した。
「ふ、ふざけるなっ！！」
「はははっ……冗談、冗談だって」
慌てて取り繕うがパエリアは真面目に怒っている。
ライスは苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、…似合うと思うんだけどなぁ…」
パエリアは座っていた椅子からがたんっ、と音を立てて立ち上がった。
「帰る！」
スタスタと歩き出す。
「あ、待ってください、パエリアさん！」
カシスも慌てて立ち上がった。
「もう！ライスさん、パエリアさんをからかわないで下さいっ！！」
ライスにきっちり文句を言って、カシスは劇場を飛び出しパエリアを追った。
残されたのはライスとセロリ。
「ちぇ」
またまずい事を言っちまったか、とライスは肩をすくめた。
……と、その肩を、セロリがぽんぽん、と慰めるように叩いた。
「……オレも。…似合うと思うぞ…」
やや顔を赤くして、大真面目に言う。
「だろ！？」
ライスとセロリはうなずきあい、もったいないな、とため息をついた。
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