ドラクエ3 〜決戦!バラモス城〜



ラーミアはネクロゴンド山頂へ向かい夜の空を飛びつづけた。
目指すは魔王バラモスの居城。

もう直ぐ。もう直ぐだ。
パエリアは白みはじめた空を睨んだ。
全てが終わる。
私の、……全てが。

それが生きる目標だった。それ以外は何も無かったのだ。
必ず勝ってみせる。
世界を平和に導く。

腕が小刻みに震えた。怖い訳ではない。不思議な…高揚感。
武者震いというやつか。

「皆、もうすぐ、魔王の城だ。……最後まで、付き合ってくれるか?」
パエリアは後ろの仲間達を振り返った。
「何言ってんだよ今更! 当り前だろ!?」
セロリが不愉快そうに言う。
「当り前だ」
「当然ですよ」
ライスとカシスもほぼ同時に応えた。

パエリアはふ、と口元に笑みを浮かべた。
「ありがとう…」
言いながら、腰に収めた剣を引き抜く。
きら、と朝日を反射して光る剣を、パエリアは高く掲げた。

「…勝つぞ!」

おぉ、と仲間達の声があがり、ラーミアはバラモス城上空へと辿り付いた…。

◆◇◆◇◆

閉ざされた門をこじ開け、一行は城内へ足を踏み入れた。

天井の高いフロア。敷き詰められた絨毯。
思ったよりも綺麗な城だ。元は人間のものだったのだろうか。
しかしフロアを囲むように、やけに禍々しい、巨大な石像が並べられている。

「けっ、悪趣味だなぁ…」
像を見上げ、はき捨てるようにライスが言った。
「魔物の趣味など、こんなものだろう」
気にも止めずにパエリアは言って、さっさと歩を進める。
「…待てよ……なんかおかしい!」
セロリが訝しげに叫んで、パエリアが振り向いた、その時。

なんと並べられた像が一斉に動き出した!
「!?」

――ガオオォォンッ!!
像の持つ棍棒がフロアにめり込む勢いで叩きつけられる。
とっさに床を転がり、パエリアは身をかわした。
膝をつき、顔を上げる。
「なんだ、これは…っ?」
ライスは大剣を引き抜き、ニヤリと笑った。
「おぉ、盛大な出迎えだ、こうじゃなくちゃなぁっ!!」

一行を囲む石像は5体。
ライスは走り出し一体の石像に切りかかった。
セロリは印を結び魔力を集中し始める。
パエリアも剣を抜き走り出した。

先程から微動だにせず目を閉じていたカシス。
カッと目を開きその呪文を口にした。

『――ザラキ――』

死の言葉が紡がれる。
石像の動きがピタリと止まった。
仲間に向けられたものではないが、それでも皆の全身に嫌な汗が吹き出す。

魂を抜かれた石像は全て、ただの置物と化して沈黙した…。

印を結んでいた手を解き、セロリは呆然と呟く。
「すげぇ……全部、やったのか…?」
「今のところ致死率100%という事ですね」
ふふ、とカシスは嬉しそうに微笑した。
「……」

◆◇◆◇◆

素直な造りではない城を、奥へ奥へと進み、やがてバリアに囲まれた、降りる階段を見つけた。
城へ入って随分経つ。恐らくはもう最奥のはず。
そして階下から漂うこの邪気は…!

「カシス、皆に回復を!」
立ち止まったパエリアが皆を見回す。
頷いて、カシスは皆に『ベホマ』をかけ始めた。
最後にカシスが自身を回復するのを見届けて、パエリアは叫んだ。

「行くぞ!!」

降りればそこは、熱気に包まれたフロアだった。
何処から響くのか分からない地響きが、止む事無く鳴り続ける。
フロアの奥に端座する、強大な気配…!

「バラモス!」
パエリアは剣を掲げ怒鳴った。
「私はアリアハンの勇者、パエリア! …お前を倒す!!」

魔王はさすが、今までに見たどんな魔物よりも巨大で醜悪だった。
ドラゴンを太らせ、キメラの首をすげたような姿。
バラモスはその醜い顔を歪め、低く笑った。
「ついにここまで来たか、パエリアよ…」

背筋を撫でる、ざらついた、声。
「ここに来たことを悔やむが良い。もはや再び生き返らぬよう、そなたらのはらわたを喰らいつくしてくれるわっ!」

バラモスの巨体が宙に浮かんだ。
皆が、身構えて武器を構える。
パエリアは既に駆け出していた!

「おぉおおおっ!!!」
『イ・オ・ナ・ズ・ン!!』

パエリアの剣がバラモスの肩口を抉るのと、イオナズンの爆撃が襲うのは同時だった。
衝撃をモロに受けて飛ばされるパエリア。バラモスの巨体は音を立てて石の床に着地する。

まだ煙る空気を振り払い、全身に負った火傷をものともせずにパエリアは立ち上がった。
「うおおぉっ!!」
再び猛然と走り出す。

「パエリアさんっ!」
回復呪文を唱えようとしていたカシスが、すっと印を変え防御の呪文に切り替えた。
『――スカラ!』
炎のような赤いオーラが勇者を包む。

ライスも一歩遅れて駆け出した。
「らぁああっ!!」
背後からセロリの呪文が飛んだ。
『バイキルト!!』
ライスの持つ大剣が白く輝き、その腕に力がみなぎる。

――ザシュッ!!
――ザンッ!!

「ぐぉおおおおっ!!」
腹を抉られ揺るぐ巨体が、鋭い爪を振るってきた!
「!」
とっさにライスは後方へ跳躍して避ける。
しかしパエリアは動かなかった。
――ザンッ!
肩から切り裂かれ真っ赤な血飛沫が上がる。
「パエリアッ!?」
ライスが驚愕の声を上げた。かわせない距離ではなかったはずだ。

パエリアは一瞬眉を潜めただけで、直ぐに剣を上段から振り下ろした。
近距離からの一撃がバラモスの脳天に叩き落される。
――ズガッ!

捨て身の攻撃。

防御を考えない戦闘が続いた。
パエリアは、後の事など考えていなかった。
――目の前のこの敵を。倒すんだ。
パエリアを支配する強い思い。
――必ず。必ず…っ!

バラモスの口がぱっかりと開き、業火を吐き出す。
それでもパエリアは避けなかった。
炎の中、バラモス目掛け、ただ剣を薙ぐ。

『――ベホマッ』
『――ヒャダイン!!』
無茶な戦闘を、仲間の呪文が支えていた。

「…っ!」
ライスは背後からバラモスへ切りかかる。
「ああああっ!」
渾身の一撃。
同時に前方からパエリアも剣を振るっていた。

――ズザンッ!!

「ギァアアアアっ!!」
バラモスの悲鳴があがる。ほとばしる紫の血飛沫。

「おのれ…っ!」
バラモスは再び宙へ浮いた。
どくどくと血をしたたらせながら、パエリアへ鋭い眼光を飛ばす。
「忌々しい……勇者め!!」

両の手の切っ先が。パエリアの鼻先すれすれにまで迫る。
――これで。最期。
パエリアの剣が空を切り裂き、白い閃光が走る。

肉を断つ音。吹き上がる赤黒い血飛沫。

パエリアは膝を付き、支えきれずに両腕も床へついた。
続いて、バラモスの堕ちる地響きが。

――ズズゥゥ…ン…


短い静寂が訪れた。

「か、……勝った。…勝ったぞ、おい、パエリア!」
セロリが駆け寄ってくる。
気配は感じるが、パエリアの視界は白くぼやけて姿を捉える事が出来ない。
「パエリアさん!」
心配そうな声。
…少しばかり、無茶な戦い方をした。またどやされるか…。
「おい、しっかりしろ!パエリア!!!」
ライス…。
覚えのある体温が、肩を揺する。

………。

勝った。
……終わった。全て。

パエリアはゆっくりと、意識を手放した…。



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