じめての。 〜告白〜

あたしは、思わず呼び止めていた。

足を止めて振り返る、彼。
「…?」

「せ、責任、取るよ!」

奴隷だって何だって、いいや。だってあたしはもう既に、あなたの恋の奴隷ですから。


「…あ、ほんと?」

そう言った、彼の表情は。
すっごく嬉しそうに、にかーっ、と笑ってた。

ああその笑顔。
好きです。
好きです。
大好きです。

なんだろう、なんでこんなに胸がきゅぅーっってなるんだろ。


横でため息ついてる真奈美は、無視。
あたしはその『責任』の取り方を聞くために、北野くんの方に歩き出した。





きゅ…きゅ…きゅ…。
汗臭くて、薄暗くて、きったなくて、狭かった。

そこはサッカー部の部室。
あたしは彼と一緒にボールを磨く。

「悪いな」
「…ううん」

だけどこの空間は、あたしにとってどんな高級ホテルのスィートルームよりも素敵な空間パラダイス。
だって彼と2人きり。こんな超密度な距離にいるなんて、とても信じられない。
今日は、彼、ボール磨き当番の日なんだって。

朝の席替えといい、今日はあたしと彼の距離が一気に縮まった記念すべき日だ…。さようなら、昨日までの遠くから見てるだけだったあたし…。
なんて、しみじみ考えてたら、彼が口を開いた。

「今度、なんかおごるよ」

「うええっ!?」

また声がひっくり返った。すっとんきょうな声を上げて立ち上がったあたしを彼は不思議そうに見上げ…それから吹き出した。

「面白いよな、村上って」

くっくっく…と笑いをかみ殺しながら、おかしそうに肩を震わせている。

かーって、顔が染まってくのが、自分で分かる。
ああもう、消えたい。無くなりたい。
でもここに居たい。
うああん、もう、なんでちゃんと出来ないんだろう、あたし。
あたしの、ばか!

「気になってたんだ、ずっと」

……。
……え?


「席、隣になったろ?それでさ、これはもう、運が俺に味方してる、なーんてな、調子に乗ってみたりして…」
彼はひどく恥ずかしそうに……恥ずかしそうにしてて。
目を逸らした。
信じられない。

あの彼が。
恥ずかしそうに!?あたしを見て!?

「……あのさ」

北野くんは逸らしてた顔を戻して、立ちっぱなしのあたしを見上げた。
マヌケな事にあたしの口は半開きのままだったけど、この時は自分で気づいていなかった。

「…あー…」
何か言いかけて、彼はまた頭を掻く。
「やっぱ、いいや…、ごめん、忘れ…」

「や、ヤダヤダ、何!?何!?いいいい言って!?」

あたしって。
あたしって本当にずうずうしいんじゃないかと思う。

バクバクいってる、心臓。
ほんの2時間前までは、こんな状況夢にも思っていなかった。
震える足元。
ひざがガクガクしてきた。

これはもしかして。『告白』。
なんじゃないか、と思ってる、あたし。


「…んー…うん。」
彼はまた顔を上げて、照れくさそうに。

「『0.067』…ごめんな、ホントは分かってた」

…え?え!?
なんだか展開について行けなくて、腰が抜けたみたいに、あたしはふら、とイスに座り込んだ。

「2人になりたかったんだ」

本当は。答えを教えてもらったお礼に何かおごる、って、そういう筋書きだったんだって。
あたしのドジのせいで少し予定はくるったけれど…。

「つき合ってくれないかな。……好きだから……」


たぶん、このとき確実に。
あたしの時間は、止まったと思う。
心臓が、跳ねる音を聞いた。


ああ。神様。
神様。

あたしの声が、今度こそひっくり返ったりしませんように。
すう、と息を吸い込んで。

「……は、はい…」


わりと、マトモに、言えたと思う。




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