じめての。 〜デート〜

クマが出来ていた。

今日という日は16年の人生の中で一番の晴れ舞台だというのに、クマが!!
興奮しすぎて眠れなかったのがいけなかった。
深夜まで一人ファッションショーを繰り広げてしまったのがいけなかった。

どうしよう。
こんな顔で彼に会うなんて!
もともとそんなに良くも無い。きれいな肌だけが自慢の顔だったのに…!!

あたしは絶望的な気分になって鏡台の前に立ち尽くした。

…母さんの、化粧道具が目に入った。


そうだ!化粧!!
化粧道具くらい自分でも持っている。
学校にはしていかない派だけど、一応ひと通り揃えてはある。…100均で買ったヤツばっかだけど…。

あたしは迷わず母さんの、高そうな化粧品に手を伸ばした。

ごめんね、お母さん!
今日はあなたの娘のヒノキ舞台なんです!!!



そうして何とかクマも隠し、あたしは意気揚揚と玄関を出た。
と。

「おっ、亜矢、どこ行くんだ?…げっ何だその顔」

「あ、へーちゃん」

ひょっこり現れたのは斜め向かいの家の「へーちゃん」こと良平君。
同い年の男の子。最近はあんまり会ってなかったけど、小さい頃はよく遊んだ。
よーするに幼馴染みなんだけど…。

「…なな何、なんだその顔って!変?変??」

あたしは再び絶望的な気持ちになって、ぺたぺた顔を押さえた。
慣れない化粧は失敗したんだろうか。じ、自分では結構…、何ですか、その、まぁまぁだと思ってたんですけれども…。

「…べっつにぃ〜。なんだよ、男か?」

へーちゃんはにやにやしながら言って、あたしをジロジロみた。

「な、何よぅっ!別にいいでしょ、あああたしが男と会っちゃいけないっての?」

「いやぁ、雪でも降るんじゃないかと思ってさ」

へーちゃんはワザトらしく空を見上げて手をかざしたりしてる。
あからさまにあたしを馬鹿にしてる。

何よ何よ、自分はしょっちゅう女の子連れて歩いてるからって…!!!

へーちゃんは割とモテルほうだ。ルックスがまぁまぁイケてるらしいから。
でもあたしには只の悪ガキにしか見えないけどね。
鼻水たらしてた頃の記憶しか残ってないけどね!

「うう、うるさーいっ!!」

思いっきり叫んで背を向けたら、後ろで笑い声が聞えた。

ああもう!
せっかくの記念すべき日なのに、出端から飛んだケチがついちゃった!!





約束の15分前。
あたしは待ち合わせの駅前にやって来た。

駅ビルのショーウィンドウに自分の姿が映ってる。ワンピースを着て、低いけどヒール履いてるあたしは、どこかのお嬢さんみたいだった。
なんとなく、乱れてもいない髪を手で梳いてみる。

うわ。
なんだこれ。

急に、実感が湧いてきた。

うっわ〜。あたし、デートなんだ。彼と、待ち合わせなんだ。
はぁああ、なんだか、信じられない。デートなんだぁ〜

胸の辺りが早くもトクトクと騒ぎ始めてる。
あたしは2,3回深呼吸して気を落ち着けようとした。
落ち着け、落ち着け…。
あんまり浮かれてると、またとんだドジを踏みかねない。

…それにしても、ちょっと早く来すぎたかな。
どうしよう。あんまり早く来てるのがバレたら、かっこ悪いかな…。

やっぱりもうちょっと時間を潰してこようかな、と歩きかけた時。

「村上!」

低い声が、後ろの方から飛んできた。

「は、はい!」

思わずピシッと「気を付け」してしまった、あたし。
彼の盛大な笑い声が聞こえてくる。……ああ。

「出席とってるみたいだな」

…あ、呆れられた?
そう思って振り返ったら、彼はうれしそうに笑ってた。

今日は初めて見る私服姿。

…な、なんかいつも以上に緊張するんですけど…。

だって彼はカッコイイ。
真奈美とかが聞いたら絶対『ハァ?』って言うんだろうけど、でもでも!
気取り過ぎない崩しすぎない、まぁ普通と言ってしまえばそれまでなんだけど、ジーンズ姿の彼は誰がなんと言おうとカッコイイんです!

「おまたせ」
彼は片手を目の高さに上げて、言った。
「うううううん、全っ然、待ってない!」
嬉しくって、あたしはかなり勢いづいて言ったと思う。
「ありがとう!」

「は?」
彼は思いっきり不思議そうな顔した。

「…え、だ、だって……き、来てくれたから…」

彼は前かがみになって、また大笑いしだした。
「…誘ったの、俺」

「あ」


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