じめての。 〜ケンカ〜


真奈美は呆れたようなため息をついた。
「はー。しょーもな

かっちーーーーん。
「ちょぉっと!し、親友がこんなに悩んでるのにそそその一言で片付ける気!?」

真奈美は馬鹿にしたように笑った。
「いいじゃん、やきもちの一つくらい。素直に喜んでおいたら?いやぁ、意外にかーわいんだねー、北野のヤツ」

なんてヤツだ真奈美!
知ってたけど。
知ってたけど北野くんを馬鹿にしたようなその言い草は…っ

「まぁまぁ、部活終わるまで待っててあげたら?きっと大喜びでしょ。簡単簡単、仲直りなんて」
言いながら、真奈美はあはは、と笑ってカバンを手にした。
それじゃね〜♪と笑顔で、軽やかに教室を出て行ってしまう。

……ああ。
なんで余裕シャクシャクなんだ、真奈美は…。
彼氏なんて居ないはずなのに…っ。はずなのに…。…………たぶん…。

それからあたしは、真奈美に言われたとおり、彼の部活が終わるのを待っていた。
自転車置き場の脇で待ち伏せてる。

そのうち、ざわざわと賑やかな団体さんの声が聞えてきた。全部男子の声。

あー、あれサッカー部っぽいなー…
どうしよう。
これは出て行きづらいぞ…

そのうち、7,8人の団体さんは自転車置き場の前までやって来た。
案の定、その中には北野くんの姿があった。
ああ、ジャージ姿の北野くんもやっぱりカッコイイ……
……でなくて。

ああ、どうしよ。だって北野くん団体の真ん中辺にいるんだもん…っ
声かけづらいよ…っ

団体さんはそのまま、ガヤガヤと自転車置き場の前を通り過ぎて行ってしまった。
…出そびれてしまった…。

…う、上手くいかないなぁ…。

しょうがないから、今日は諦めて一人で帰る事にした。
明日があるさ…、なんて虚しく呟いて、あたしは歩き出す。

そうして、校門に差し掛かった、その時。

急に腕を引っ張られた。
「ひゃああああっ」

門の側の植え込みの所。危うく木にぶつかる所で肩を押さえられて止まった。


「…き…っ!?き、きき北野く……」

「何してんの、こんな時間まで。今日は茶道部ないでしょ」
彼は、少し笑ってた。

良かった、怒ってはいないみたいだ…。
ちなみに、あたしはお茶菓子に惹かれて入っただけの週2回の茶道部員。

…えーと、えーと。
「えと、うん、その、い、…居残り…」
とっさに良い答えが浮かばなくて、あたしは思わず言ってしまった。

彼はとたんに笑い出した。
「ははははっ、ウソ、ウソ。俺の事、待ってたんだ?」

かーーって顔が熱くなるのを感じながら、あたしは俯いた。
「う……うん」

うぅ。
やっぱり、北野くんはちょっとだけ意地悪だ…

「さっき、自転車置き場で見つけてさ、……すげー嬉しかった」

嬉しかった?
嬉しかったんだ?北野くん…

それって、なんか、あたしも、嬉しい。

い、今なら謝れるかな…
「あ、朝は、ごめんね。あの人は、本当にただの幼なじみで…」
「うん、いいよもう。怒るの、疲れた。しゃべれないのって辛いよな。」
照れたような笑顔。

うん、うん。辛かったよ、本当…。でも、良かった…

あたしが心底ホッとしてたら、彼は突然、きっぱり言った。
「あのさ、明日もまた迎えに行くから」
え?
「でも、朝連は…?」
「テスト前だから明日から休み。」
「え、で、でも…」
北野くん家は、うちとは全然方向が違う。
すごく遠回りになってしまうんじゃ…。

あたしが戸惑ってたら、彼の表情は少し険しくなった。

「…来られると困る?」
ええ!?
「…そんな事、ないけど…っ」

…これって。もしかして。

「じゃ、行くよ」
そう言われてしまったら、もう何も言えない。
あたしは黙ってうなずいた。

これって、やっぱり。へーちゃんの疑いが晴れてないんだ…


「それとさ。」
彼の手が伸びて、あたしの顎に触れた。
くいっと顔を上げさせられる。

え!?
な、何!?何!?!ま、ままさか…!?
こ、こ、ここは学校ですよ北野くん!?

「…ぷっ、違うよ。」
彼は笑いをかみ殺しながら言った。
「名前。呼んで?下の名前で」

「え…っ」
急に言われて、とても焦る。
…貴志くん。
「た、たか、し、くん…」

なんでこんなに照れるんだろう。顔がもう絶対真っ赤になってる。
でも彼は、意地悪な表情で。

「だーめ。もっと自然に」

うう。
「貴志、くん…」
つっかえないように、必死で言った。
なんでこんなに必死になってるんだろ、あたし…

「うーーん。まぁ、いいか。」
彼はにっと笑った。

「今度からちゃんと呼んでよ?」

あたしは、真っ赤になりながら、うなずいた。
「う、うん。」

こないだまで、しょうがないな、って笑ってくれてたのに…。

「帰ろ」
そう言って、彼はあたしの手を握った。とても自然な仕草。
その笑顔はとっても嬉しそうで。
…貴志くん…。

あたし達はまた、ドキドキしながら手を繋いで帰った。



発見。
彼はちょっとだけヤキモチ焼きなのかもしれない…。

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