三.
気が、滅入る。
幸孝は梨壺の庇の間にごろりと横になり、鬱々としていた。
源大納言の姫……桐壺女御と幸孝の不仲の噂は、近頃では後宮のほとんどの者が知っていた。いくら気を使って時折はたずねていても、やはりこういった事態は隠せるものでも無いのだろう。噂が広がってからというもの、ますます幸孝の足は遠のいていた。
最近では父帝や母中宮にも、新しい女御を迎えてはどうかと薦められている。幸孝にもその気が無いわけでは無いのだが、しかしいくら「美しい」だの「才媛」だのと言われても、いっこうに興が湧かなかった。
源大納言の姫は評判の美貌で、それはその通りだったのだが、それだけで一緒になっても、また失敗するかもしれない。春宮の身にあるのだから、妻は何人迎えても多すぎるということは無いのだが、やはりどうせなら気に入った姫と仲良くやりたいものだ。
「いいよな……身軽な貴族達は」
つい、ぼそりと呟く。
やはり貴族の身の上では、お互い顔も合わせず結婚するような事も多いだろうが、それでも春宮の自分よりは、姫君と直接話したり、人となりを調べることが出来るのではないかと思えた。
しかし、自分と同じような立場のはずの父帝と母宮は、それはそれは上手く行っているように見える。他にも父の女御は数人居るが、それぞれみんなと仲良くしていて、至極円満だ。母宮ももともと大臣家の姫なのだから、身分だけで入内したろうに、まったく父帝は幸運だったという訳だ。
「俺はついてなかったって事か……」
とはいえ、春宮という立場上、いつまでも不仲の女御一人という訳にもいかない。そろそろ本格的に考えなくては、また意に沿わない姫を入内させられかねない。
(光源氏じゃないけど……いろんな姫を見てまわれたらなぁ……)
結局春宮の身の上では、噂だけが頼りになってしまうのだ。
「今度は明るい姫がいいなぁ……」
せめて、笑顔を見せてくれる姫がいい。
そう考えたとき、簀子縁に人の立つ気配があった。
「幸孝様」
それは、見知った公達(きんだち)の……親友の姿だった。幸孝は直ぐに身を起こした。
「おう、峰平」
手招きすると、峰平はにっこりと、優美な笑顔を浮かべて庇までやってきた。
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